中高生が自分の力で進路を選ぶ社会を作りたい。課題最先端地、四国での挑戦

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中高生が自分の力で進路を選ぶ社会を作りたい。課題最先端地、四国での挑戦

団体が始まったきっかけや活動への思いを生の声でお届けすべく、助成先団体の代表者の方へお話を伺うShall we KIFU?代表インタビュー。

第8回は、特定非営利活動法人みんなの進路委員会 代表理事の谷村 一成さんです。

みんなの進路委員会は、四国の中高生に出前授業やワークショップを通して海外進学という選択肢を知ってもらい、彼らの進路選択の多様化や主体性の醸成を目指しています。
全国の中でも、海外進学をする中高生が少ない地域である四国地方。その四国で生まれ育った谷村さんが、自分の歩んできた進路について、大人になってから感じた格差とは?
谷村さんが活動にかける、熱い思いを伺いました。

 

 

 

中高時代に感じた生きづらさ

 

田川
田川
みんなの進路委員会の当財団でのプロジェクトは四国の中高生を対象にしていますが、谷村さん自身はどのような中高生生活を送っていたのですか?

 

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谷村さん
私自身も四国出身で、香川県で生まれて高校まで過ごしました。
両親は高知県出身で、親からは「おかしいことは声をあげて変えていこう」「ファーストペンギンになろう」と言われて育ったのですが、学校ではその考え方がなかなか受け入れられませんでした。

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谷村さん
学校の児童会等で「ここはこう変えた方がいいのでは」と提案しても、前例踏襲が通例でしたので、「変える必要はない」という考えの人も多く、変わったやつ、面倒なやつだと思われていたかもしれません。

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谷村さん
絵を描くのは得意でしたが、モヤモヤと生きづらさを抱えて、「こんな田舎出て行ってやる!」と思ったりしていました(笑)。

地元から眺める瀬戸内海(左)と、谷村さんが小学1年生の時に授業で描いた作品(部分)

 

東京に出て痛感した情報の格差

 

田川
田川
高校卒業後は東京の大学に進学されましたが、生きづらさは和らぎましたか?

 

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谷村さん
そうですね、人の数が多く色々な人がいるので、生きづらさは薄まりました。勉強の他、書くことが好きだったので新聞や雑誌の学生記者をしたり、アイヌ文化について研究したりしていました。

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谷村さん
ただ、学生生活を送っていくうちに気が付いたのは、首都圏出身の同世代との経験の差です。自分は「大学生になったら初めて色々なことができる」と思っていたのが、東京に来ると、中高生の頃からボランティアや起業、本の出版等、自分が「大学生になったらできる」と思っていたことを、既に経験済みの大学生と沢山出会ったのです。
その経験の中の一つで驚いたのが、高校卒業後の「海外進学」です。

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谷村さん
大学生時代に、アメリカのカールトンカレッジ、オーストラリアのシドニー大学等に留学したのですが、そこで出会った日本人の中には、日本の高校を卒業した後にそのまま海外の大学に進学した人がいました。
自分は国内の大学への進学しか考えたことがなかったので、「知らなかった、そんな選択肢があったんだ!」と、衝撃を受けたのです。

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谷村さん

私自身は四国で育ち、進路選択の時に「東京」と考えるだけでも別世界に行く感覚でしたので、海外進学という選択肢があるということすら知りませんでした。当然、海外進学をした人は身の回りに1人もいませんでした。
仮にもしその選択肢を知っていたとしても、海外進学はしていないかもしれません。でも、その選択肢を知らずに自分の進路を選んだことをとても悔しく思ったのです。

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谷村さん

色々と検討の結果、興味関心を持つ「きっかけ」を作り、興味関心を持った時に身近なロールモデルがいれば、中高生が目の前のレール以外の選択肢を知り、その上で自分の進路を選んでいけるのではないかと考えました。

田川
田川
それが、みんなの進路委員会の「出前授業」を立ち上げる原点になったのですね!

オーストラリア留学時の谷村さん(右端)。性的マイノリティのホストファミリーや先住民との関わりの中、多様性を肌で感じる機会となる。

 

出前授業の確かな手ごたえ

 

田川
田川
海外大学経験者をゲストスピーカーとして招き、進学の経緯や実生活等の経験談を中高生に伝えるという出前授業を実施してみて、どのような手ごたえを感じていますか?

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谷村さん
参加した多くの生徒が「海外進学が現実的な選択肢だということが分かった」と前向きな反応を示し、効果を実感しているところです。実際に海外進学の準備をしているという生徒も出はじめています。

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谷村さん
初めての出前授業は2021年、香川県の大手前高松高校で、参加した生徒は8人でした。私の実力不足で、興味を持っていただけない生徒もいましたね(笑)。

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谷村さん
最初は自分たちも学校側も初めてなので全てが手探りでしたが、回数を重ね内容を工夫していくうちに、先生も生徒の変化を実感されるようになりました。
一度出前授業を行った学校の先生が「正直、子どもたちにこんなに関心があるとは思いませんでした。」と生徒の前向きな反応に驚き、再度出前授業を希望するケースもあります。
田川
田川
それはすごいですね!出前授業のゲストスピーカーは、現役の海外大学生や海外大学卒業後数年位の若手ということですが、どのような狙いがあるのでしょうか?

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谷村さん
授業を受ける中高生にとって、自分たちと年齢が近い方が親近感を持てるからです。直接進学体験を聞いたりワークショップで話したりする中で彼らが身近に感じられ、自分のロールモデルにしていくことができるのではないかと思っています。

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谷村さん
活動の認知度も上がってきて、最近は、生徒会等の生徒から「出前授業をやってほしい」と依頼が来ることもあります。また、出前授業がきっかけで、海外進学に興味を持つ高校生たちが情報を交換し合うオンラインコミュニティを自分たちで作りました。

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谷村さん
先日、2021年に出前授業を受けた高知県の高校生が、海外大学に出願しました。その高校で初の海外大学志願者で、結果は年明けに出る予定です。
彼が合格したらもちろんとても嬉しいのですが、合否に関係なく、「選択肢を知って主体的に行動した」ということが、その子にとっての自信になるのではないでしょうか。

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谷村さん
みんなの進路委員会の目的は、「海外進学を増やすこと」ではなく、「進路を自分の力で選ぶ主体性を醸成する」ことです。子ども達が自分で考え、行動してくれることはとても嬉しいですね。

マレーシアの大学に進学したゲストスピーカーの体験談に聞き入る高校生。

 

大人が子どもの可能性に蓋をしない

 

田川
田川
出前事業をしていく中で、谷村さんが課題に感じることはありますか?

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谷村さん
そうですね、時々、大人が子ども達の可能性に蓋をしてしまうと感じることがあります。先ほどお話したように、生徒から直接出前授業の希望があっても、こちらから学校側に問い合わせると、先生から断られることもあります。また、こちらから出前授業を提案した高校の先生が、「うちの学校の生徒が海外進学なんて、とても無理です」と仰ることも珍しくありません。

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谷村さん
蓋のついた瓶にノミを入れると、ノミはもっと高く飛べるのに、瓶の高さまでしか飛べなくなってしまいますよね。まさにそれで、子ども達の興味や希望を、大人たちが制限しないよう注意する必要があると思います。

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谷村さん
ある学校の関係者が言っていた印象的な言葉がありました。その方は、「海外に進学することを、まるで『金魚鉢の外に出る』ように感じている人が沢山いる。だが世界は大きな水槽で、日本からそのまま海外につながっているんだ」と、仰ったのです。

 

田川
田川
確かに、日本は地理的にそのような感覚になるかもしれませんが、海外とのつながりなしに現代社会は成り立ちませんよね。

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谷村さん
そうですね。前職で海外の留学生を支援する仕事をしていたのですが、どこの大学を受験するか選ぶ際、「国内か、海外か」から考えている海外の生徒をたくさん見てきました。日本でも、単に目の前のレールに乗るのではなく、多くの選択肢を知って自分で進路を選んでいくようになってほしいです。

 

中高生の主体性を高めるための挑戦

 

田川
田川
みんなの進路委員会で今後取り組んでみたいことはありますか?

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谷村さん
若者の主体性を高める取り組みを、もっと色々とやっていきたいと思っています。

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谷村さん
今年、杉並区NPO活動資金助成を受けて、杉並区の中高生を対象とした「SDGsイベント企画プログラム」を実施しました。
これは、杉並区内の中高生がイベントを企画するために必要なスキルを学び、区内の小学生に対してSDGsに関する学びの場を提供するというものです。
20名近くの高校生がプログラムに参加し、100名近い小学生がイベントに参加しました。参加した高校生たちは、自ら企画・実施することへのやりがいと大切さを感じられたようです。

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谷村さん
同じような取り組みを、高知の高校生ともやってみる予定です。大都市は課外活動が盛んですが、地方だと中高生が課外活動をする機会があまり多くありません。
いいことも悪いことも含め、生まれ育った香川での18年間は自分のアイデンティティを築いた大切な場所です。故郷がより活気のある魅力的な場所になるために、色々と挑戦したいですね。

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谷村さん
四国は人もリソースも減りつつある課題最先端地なので、若者の主体性を高める「出前授業」やこの取り組みが四国で上手くいけば、他の地方でも通用するのではないかと思っています。

 

こんな社会を作りたい!

 

田川
田川
最後に、谷村さんの「こんな社会を作りたい!」を教えてください。

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谷村さん
やりたいことができる社会」を作りたいですね。
生徒たちと接していると、「やりたいのにできない」という声を聞くことがあります。それは、経済的、地理的事情由等色々と原因はありますが、「大人に反対される」という声もよくあります。
自分がやりたいことを否定される環境にいると、自分ってどうでもいい存在なんじゃないか、と思ってしまいますよね。

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谷村さん
自分も子どもの頃そのような環境にいたことがあったから、悲しいよねって思うし、そういう人達を減らしていきたいです。

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谷村さん
「やりたいこと」というのは、もちろん法に触れない範囲で、社会課題解決に資することである必要はなく、周りから見たらくだらないこと、どうでもいいことでも良いんです。ノーベル賞やイグノーベル賞等は、ニッチな研究や地道な基礎研究がきっかけだったりしますよね。

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谷村さん
やりたいことが芽生え、それができる時に、その人の個性や自分らしさ、自己肯定感が生まれるのだと思っています。

 

田川
田川
本当にそうですね。子ども達が選択肢を知り自ら選ぶことに加え、私たち大人自身が先入観を捨て、子どもたち一人ひとりの魅力が活かせるような環境を作っていく努力が求められているのだと感じました。
本日は、貴重なお話をありがとうございました!

***編集後記***
人口減少や高齢化、経済縮小等の課題を抱える地方。谷村さんは「若者に選んでもらえる魅力的な地域、社会をつくることが大切だ」と仰います。生まれ育った香川を愛し、いずれは香川に戻って生活したいと仰る谷村さん。「四国の若者が主体的に進路を選ぶようになってほしい」という谷村さんの思いは、巡り巡って四国がより魅力的な地域に変化するための原動力になるのではないかと感じました。

お金をまわそう基金 田川

 

現在、みんなの進路委員会は寄付を受け付けています。皆様の温かいご支援をよろしくお願いいたします!

四国の中高生たちに「世界に広がる進路の選択肢」を伝えたい!