みんなと今を生きる場所 ーならはらの森なかの学舎ー

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みんなと今を生きる場所 ーならはらの森なかの学舎ー

ならはらの森へ

東京都八王子市楢原(ならはら)町。秋川街道から少し入った森の中にカリビアングリーンの小さな学舎「ならはらの森なかの学舎」(以下、なかの学舎といいます)はあります。

ブナの大木がやさしい日陰をつくる森の中を、子どもが風のように走り抜けていきます。手作りのツリーハウス、ターザンロープ、ブランコ…、子どもたちの大きな歓声が響き渡ります。

この日は地域の方々に森を開放する「あそびば&マルシェ」が開催されていました。思い思いの場所で手作りの小物を売っている人も、マルシェの様子を見に訪れた人も、森の子どもたちを温かい眼差しで見守りながら、のんびりと過ごしています。

なかの学舎の代表理事 髙橋惠子さんとも森の中でご挨拶。笑顔がとてもチャーミングな髙橋さん。「日本一幸せな幼児期」をスローガンに、子どもの個性と主体性を尊重する幼児教育を実践している私立「なかの幼稚園」(東京都八王子市)の園長を45年間務めたあと、なかの学舎を立ち上げました。

以前からご自身が所有する森の活用を考えていた髙橋さんは、「子どもが学校に行きたがらない」という卒園児の保護者からの相談を受け、学校に居場所を見つけにくい子どもたちのために、安心して遊び、学び、のびのびと育つことができる空間をこの森につくったのです。

 

「ならはらの森なかの学舎」のみなさま  後列左が横手俊哉さん、右が内田稔さん、  前列左から松尾良子さん、代表理事の髙橋惠子さん、後藤妙子さん

 

辿り着いたのは「なかの学舎」

2022年3月まで小学校の教諭をしていた内田稔さんは、4月から子どもたちの理想の居場所をつくるため、なかの学舎に転職しました。なかの学舎では副理事長も務めています。

「既存の学校を否定しているわけではないのです。学校教育の現場にいる方々は子どもたちのために非常にがんばっているし、そのシステムも多くの子どもたちには有用で有効なのだと思います。自分も最近までその場に身を置いていましたから、それは実感しています。」

「ただ、学校の環境が合わない子どもも確実に存在します。それは決して子どものせいではないですよね。子どもたちには既存の学校生活を強いるのではなく、それぞれの特性を損なわない勉強の場や居場所を用意するのが大人の役割だと私は思います。」

不登校を特定の子どもやその保護者といった個人あるいは家庭の問題として片付けるのではなく、社会全体の問題として捉える。すべての子どもが持つ「教育を受ける権利」を保障するために、既存の学校以外にも多様な環境を整えることが重要だと考えた内田さんが辿り着いたのがなかの学舎でした。

 

なかの学舎の学び

現在、なかの学舎には36名の子どもが登録しています。学校生活では常時3名以上の先生が対応しています。

なかの学舎の理念は、
1.子どもの権利を守ること
2.生活や経験を通して学ぶこと
3.人・自然・社会とつながること

子どもたちは1日をどうやって過ごすかを自分で決めます。自分の時間の使い方を自分で決める。これも「子どもの権利」です。

自然、物作り、外国語、音楽、運動、ダンス、郷土史、文化、デザイン、アートなど、授業には様々なプログラムがありますが、参加を決めるのは子ども自身。何もしたくなかったら、何もしなくて良いのです。

内田さんは、「子どもは困ったことに直面して必要に迫られたらそれを知ろうとします。知ろうとすることが学びになります。だから大人が勉強を押し付ける必要はありません。」という主義。

一方で、やはり以前は小学校教諭だった理事 松尾良子さんは、「でもね、待てど暮らせど勉強にまったく興味を示さないお子さんは、やっぱりちょっと心配になっちゃって。だから面白そうな教材を目に付くところにそーっと置いてみたりしています… (笑)。」と、優しいお母さんのような目線で子どもたちを見守ります。

長く児童福祉に携わってきた副理事長 後藤妙子さんは「子どもたちはまず自分の生活を整えるところから始めるんですよ。」と教えてくださいます。

「ご飯を炊き、畑から取ってきた野菜でみそ汁を作り、皆で昼食を囲み、使った食器を洗う。その一連の作業から子どもたちは『自分を管理すること、丁寧に生活すること』を少しずつ学んでいきます。生活をデザインすることを楽しめるようになったら、将来の自立への道筋も見えてきます。」

お話を伺っている間も、「綿あめがもう売り切れちゃった!」「のどが渇いた〜」などなど、子どもたちが次々に飛び込んできます。「ご挨拶しなさい」と先生から言われると、元気よく「こんにちは!」と言う子もいれば、恥ずかしそうにうつむく子も。でも、うつむきながら小さな声で「こんにちは」と言ってもらえて、それはそれですこぶる嬉しい昼下がりです。

子どもたちに囲まれながら、一人の若者が現れました。横手俊哉さんです。横手さんはご自身が不登校・引きこもりを経験され、現在は夢に向かって進学の準備をしながら、なかの学舎のスタッフとして働いています。子どもたちはお兄さんのような横手さんが大好き。子どもたちのちょっとした心の動きに気づいて寄り添ってくれる、とても優しくて素敵な青年なのだと、先生方が口々に教えてくれます。

子どもたちの個性が自由に伸びやかに育まれるなかの学舎。それぞれの子どもたちへの接し方を尊重し合っている先生方やスタッフが、絶妙なバランスで「ありのままの自分でいられる場所」を作っているのだと感じます。

なかの学舎に通う子どもたちのなかには、いろいろな「博士」がいます。野鳥や昆虫、貴重な植物など多様な生き物の姿が見られる森の中で、ある日「植物博士」が非常に珍しい植物が自生しているのを見つけました。その知らせを聞いた専門家の方が興奮気味に確認しに来たこともあったそうです。

髙橋さんは言います。「教育って言うでしょう。教え育てるってことなんだけど、ここは大人が子どもたちに何かを教えるっていうのはあんまり無いんですよ。ただ見守って育てるところなんです。」

「けんかしても止めないですよ。泣いたり暴れたりしても仲裁に入らない。子どもはそうやって人間関係を覚えていくんですから、最後まで見守ります。泣きわめきながらけんかをしても、最後には肩を組んで帰っていくのよ。子どもってすごいでしょ。」

 

フリースクールの課題

どんなに理想的な学び舎でも、その運営には経費がかかります。公私立学校とは違い公的支援の無い民間のフリースクールが資金を調達していくことはとても大変で、利用料(授業料)をご家庭に負担していただかざるを得ないのが現状です。

日本のフリースクールの月額利用料(授業料)の平均額は約3万3千円(※1)。ご家庭にとって決して少なくない金額です。

なかの学舎でも、「子どもを通わせてあげたいけれど経済的な理由で難しい」というご家庭が多く、そのような場合は子どもが通った日数分のみの利用料を支払っていただくのだそうです。しかし、それでは収入が支出に追いつきません。

フリースクールでも学校と同様の公的支援が受けられれば、ご家庭の大きな負担は軽減され、フリースクールの運営も安定します。

「教育機会確保法」(※2)の成立により、自治体(行政)とフリースクール双方の話し合いの枠組みが作られてからは、関係組織による協議や試行錯誤が繰り返されているのだと内田さんが教えてくださいました。

教育委員会や学校がフリースクールなど民間の団体等との連携をより強くしていくことや、不登校の子どもがそれぞれの状況に応じた支援を受けられるような体制づくりに取り組んでいくことなど課題は多く、残念ながらその歩みも早いとはいえません。

1日も早い公的支援の投入が待たれるところですが、大人たちの話し合いが「子ども不在」にならないことを願うばかりです。

※1「義務教育段階の子供が通う民間の施設・団体に関する調査」(2015(平成27)年文部科学省)
※2「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(2016(平成28)年法律第105号)

 

美しい学び舎

 

「ならはらの森なかの学舎」。子どもが「学校は苦しい」「学校に行きたくない」と言ったとき、こんなフリースクールがあったらどんなに心強いでしょう。

好奇心の趣くままに動く。自然の中で時間を忘れて遊ぶ。仲間と一緒に生活をつくり、経験を通して学ぶ。何度失敗してもやり直せる。子どもも大人も幸せに生きられる。ありのままの自分でいられる。そんな学び舎がここにはあります。

太陽が西に傾きかけても、森ではまだたくさんの子どもたちが遊んでいます。

ここで過ごす子どもたちのために、この小さな美しい学び舎がずっとこの場所にあることを願いながら森を後にしたのでした。

 

公益財団法人お金をまわそう基金では、 「ならはらの森なかの学舎」へのご支援をお願いしています。 みなさまからのご寄付は、ロフトに設置するエアコン費用と、 講師の人件費の一部に充てさせていただきます。

ロフトは子どもたちがひとりで静かに過ごしたいときや 自習のときに使う場所です。 1階の天井から降ろした梯子を登っていくと、 本棚と机が置かれたスペースがあります。

天井は低いですが、かえってそれが落ち着く感じ。 窓からは森で遊ぶ友だちの様子を見ることができて、 人との距離感を適度に保てます。

しかし、夏の暑さと冬の寒さが厳しい八王子市。 環境を整えるためにエアコンは必須です。

また、寄付金は子どもたちに多様なプログラムを提供してくださる 講師の人件費の一部としても大切に使わせていただきます。

みなさまからのご寄付が「ならはらの森なかの学舎」の 運営の力強い支えとなります。 ご支援のほどよろしくお願い致します。