国産漆を後世につなげていくための「漆の森づくり」

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国産漆を後世につなげていくための「漆の森づくり」

漆の産地 岩手へ

山滴る岩手。車は盛岡市から雫石町に向かっています。道路沿いには太陽に向かって会釈するひまわりがどこまでも続き、遠くには標高2,038mの岩手山の稜線が見えます。

ハンドルを握るのは「特定非営利活動法人ウルシネクスト」理事兼首都圏支局長の佐々木亨さん。盛岡市のご出身ですが、今は東京にお住まいです。今回はわざわざ車を駆って来てくださいました。

緑の中に点在する建物の赤い屋根。車は広々とした農場へ入っていきます。乳製品で有名な小岩井農場です。

ウルシネクストでは、日本の文化、芸術、技術を支えてきた漆を後世につなげていくため、土地の提供者や自治体などが取り組みやすいよう、昨年からウルシノキの苗木の提供や植樹の支援を行っています。

ウルシノキの苗木は、ここ小岩井農場を含め全国7か所で育成しています。
小岩井農場の南林さん(環境緑化部 緑化樹木センター店長)が出迎えてくださいました。

かぶれの心配があるので長袖に長ズボン、手袋、マスクと、完全防備(暑い!)で、いざビニールハウスへ。

 

芽吹いたばかりの小さな苗から、20センチほどに育った苗木までさまざま。

細長い不織布の育苗ポット(そのまま植えても自然に還るのだそうです)の中で初々しい根が伸びています。

ここでは苗木が25センチになるまでは育ててもらうようお願いしているのだとか。

南林さんのお話によると、今年は6,000本ほどが出荷できるそうです。ちなみにウルシノキの苗木に取り組み始めた昨年の出荷は30本。

さらに、50センチまで成長させた苗木も、今年は相当数出荷できるそうで、小岩井農場の栽培技術の高さが伺えます。

この苗木たちが、岩手県や福島県飯舘村などで漆の森を作っていくのだと思うと、愛おしさが募ります。

その小さな葉に触れてみたいところですが、幼くてもかぶれの成分「ウルシオール」を放出しているため、人とだけでなく、苗木ともディスタンスを保ちます。

スケジュールはタイト。名物のソフトクリームに心を残しながら、次の目的地に向かうため農場を後にしました。

 

ウルシノキの畑へ

ウルシネクストが取り組む「漆の森づくり」。ウルシの苗を植え、育て、管理していくためには、ウルシの種または苗の調達、植樹ボランティアの確保、管理・育成ノウハウの共有など、様々な面で長期的な取り組みが不可欠です。

その長い工程すべてを少人数のNPOで行うことは困難なため、国産漆の生産・保護を目指すほかの団体の方々と連携し、補い合い、協力し合いながら事業を進めています。

この日、車に同乗し終日案内をしてくださった「一般社団法人次世代漆協会」の代表理事 細越確太さんもそのお一人です。

2015年に東京から故郷の岩手県盛岡市上米内(かみよない)に帰郷。その折に庭先でウルシノキを見つけたのがきっかけで、漆の森づくりに携わるようになりました。

細越さんは2018年に「一般社団法人次世代漆協会」を設立。山林や農地などを所有するウルシノキの育成者や植樹支援者の募集、発芽技術や樹液採取技術の研究、樹液採取後のウルシノキの木の再利用等、幅広く活動しています。

実は佐々木さんと細越さんは、盛岡市内の同じ高校の同窓生。しかし、1学年しか違わないのに高校生時代はまったく面識がなかったそうです。

漆の森づくりの事業で知り合って、話をしていくうちにその事実が分かったというお二人。漆に導かれた不思議なご縁です。

 

車は強烈な日差しの中、盛岡市薮川に向かいます。畑や田んぼ、里山や森、川にダム湖、そして時々民家。車窓から見える夏の景色が目を楽しませてくれます。

道路沿いで一人の男性が待っていました。畑を提供してくださっている千葉正勝さんです。

左から、千葉さん、細越さん、佐々木さん

千葉さんは地元の新聞に掲載された漆の森づくりの記事を読んで、その日のうちに細越さんの自宅を訪ねていったという行動派。すぐに細越さんと意気投合し、それまでソバを作付けしていた0.7㌶の畑に、ウルシノキの苗木2,300本を植えたのです。

早速、畑に案内していただきました。

目の前に広がるウルシノキの畑…と言いたいところですが、夏の日差しを味方につけた雑草たちが畑を席捲し、どれがウルシノキかわかりません。

しかし、草をかき分けてもらうと、そこにはたしかに小岩井農場で見たのと同じウルシノキの苗木が。目が慣れてくると、等間隔に植えられた苗木が確認できるようになってきました。

繁殖繁茂。夏は雑草との戦いです。草刈りをしても2週間もあれば雑草に背丈を越される苗木たち。時として草刈り機の犠牲になったりもするそうですが、千葉さんの手で大切に育てられていました。

思い出されるのは小岩井農場での会話。「苗は25㎝以上育ててもらう」「50㎝以上の苗木が出荷できる」等々。

小さな苗木では雑草に負けてしまうウルシノキ。日光が届き、十分な光合成をさせるためには、大きな苗木になるまで育ててもらうことが大切なのだと合点がいったのでした。

日陰が無い(暑い!)千葉さんの畑。「作業は大変ではないですか?」とお聞きしたところ、「植樹も草刈りもボランティアや仲間が集ってやるから楽しいですよ。疲れちゃうと続かないから、作業はなるべく短い時間、だいたい午前中の2、3時間で終わらせるようにしてるんです。」というお答え。

穏やかな笑顔で優しく説明してくださる千葉さん。大勢の仲間と「漆」の可能性を探っていくことを楽しんでいるようでした。

 

当日は、細越さんが所有する上米内のウルシノキ畑も見学させていただきました。舗装されていない道をしばらくガタガタと登ると、唐突に一面緑色の畑が現れます。

これこれこれ!と細越さんが指差す場所を見れば、確かにウルシノキの苗木が健気に立っている。

ここには2,000本の苗木が植えられているそうです。

貴重な日陰でウルシノキの苗木を指さす細越さん

細くて弱々しい苗木。でも、いずれ雑草たちの背丈を追い越し、寒い冬を何度も越え、樹液が採れる木に成長するのだと思うと、その小さな苗木たちにエールを送りたくなります。

細越さんの畑もほとんど日陰がありません。やはり雑草たちが繁殖繁茂。夏を謳歌しています。とても暑いのですが、細越さんは元気いっぱい。直射日光を浴びながら、よく通る声で漆の説明をしてくださいます。本当に漆が好きなのです。

細越さんはご自身が所有する山林を切り開き、次々とウルシノキを植樹しています。

「漆の生産量が最も多いのは二戸市浄法寺(岩手県)です。とはいっても日本の自給率は3%。ここ上米内で浄法寺と同じくらいのウルシが生産できるようになったとしても、自給率は10%にも満たない。だから、土地を提供してくれる人を探して、漆の森をもっともっと増やしたいんです。」

 

ウルシネクストの取り組み

ウルシネクストは、国産漆の保護・振興と過疎化する地域の活性化を目的に、主要産地の岩手県や原発事故による耕作放棄地の活用を模索している福島県などで、漆の森づくりに取り組んでいます。

漆器が海外で「japan」と呼ばれるなど、漆は世界に誇る日本の文化として定着しています。

日本人は縄文時代から漆の森を守り、その自然の恵みを上手に活かしてきました。

しかし、種を蒔き、苗木を育て、10年以上かけて育てたウルシノキから、漆搔き職人さんが丹念に木を掻いても、採れる樹液はわずか200㎖。加えて樹液採取後にはその役目を終えたウルシノキは伐採されてしまいます。

ウルシノキは自生しません。つまり、毎年継続して植え続けないと、漆は増えないばかりか、現状を維持することさえ出来ないのです。

ウルシネクストの佐々木さんにお話を伺いました。

 

ウルシネクスト 理事兼首都圏支局長 佐々木亨さん

■国産漆の現状を教えてください。

明治時代の1887年以降、中国漆の輸入額は年毎に増加し、1892年以降は日本漆の産額を超過しました。

国産漆は減少の一途をたどり、1980年には6.6㌧だった生産量が、2014年には1.0㌧まで落ち込みました。

その後、2017 年には 1.4 ㌧と微増しましたが、日本の漆の自給率 は 3%を少し超える程度。

生産地の努力もあり2018 年には 1.8 ㌧まで増加しましたが、それでも自給率 は 5%弱。その大半を中国からの輸入に頼っているのが現状です。

 

■国の対策はどうなっているのでしょうか。

2015年、文化庁は寺社などの国宝や重要文化財、建造物の保存、修理における漆の使用方針について、原則として国産漆を使用するよう全都道府県の教育委員会に通知しました。

国産漆振興のため、国会議員連盟も発足し、私も昨年オブザーバーとして出席させていただきました。

何とかしなくてはいけない、という気運は高まっていると思います。

 

■漆の現状をどのように思っていますか。

本来、文化財は建築当初と同じ材種・品質の資材を使うことが原則です。

文化庁の試算によると、国内の国宝・文化財400点あまりが使用する漆は、年間2.2㌧。ほかにも高級漆器などに使われる分を考えると、1.4㌧ではとても足りない状態です。

貴重な文化財などは老朽化に加え、頻発する災害で被害を受けることもあります。

しかし、国産漆が足りない分は、修理を先延ばしにせざるを得ません。日本の国宝や文化財などの保護、伝統工芸の継承はいまや危機的状況にあるのです。

まず取り組まなければならないのが「ウルシノキの苗木を植え、漆の森を増やす」こと。

漆の森づくりを産業化することで、雇用が生まれ、地域は活性化します。

そして、国産漆の生産量が増え、日本の文化財は守られるのです。

 

■漆の魅力はどんなところですか。

乾漆カード

漆は酸、アルカリ、塩分、アルコールなどに強く、抗菌性、防腐性、耐水性、断熱性も高い優れた素材です。

また、紫外線を浴びることで自然に還るという、人間にも環境にも優しい性質を持っています。

ウルシネクストでは、プラスチックフリーの素材として、綿布を漆で固めた天然素材100%の乾漆カードの普及などにも力を入れています。

漆は生産や加工の工程において大量のエネルギーを消費しません。

漆資源の効率的な利用プロセスの構築を図るとともに、漆を活かす・使う活動を通じてゴミをできるだけ出さないライフスタイルへの転換や、プラスチック製品の使用抑制に取り組みたいと考えています。

 

■今後の取り組みについて教えてください。

漆は縄文時代から私たちの生活に根差してきたにもかかわらず、まだまだ解明されていないことも多いのです。

職人さんたちが口伝により守ってきた技術や知識を大切にしながら、科学的な知見や最新の技術なども駆使して、漆の産業化を進め、多分野での漆の利活用を目指したいと思っています。

国産漆を増やし、安定的に需要を賄っていくためには、百年の計で取り組まなければならないと考えています。そのためにも、まずはウルシノキの苗木を毎年継続的に植樹し、増やし、着実にその地域の産地化をはかっていくための支援が必要なんです。

ご寄付いただくことで、このウルシノキの苗木の購入資金に充てることができます。ウルシノキが育って社会の役に立つのは10年以上先になりますが、皆さまのご寄付は必ず将来の国産漆の発展、日本の漆文化への貢献につながります。購入した苗木は、現在植樹を進めている岩手県盛岡市上米内や藪川、福島県飯舘村に届けさせていただきます。

皆さまからのご支援をぜひお願いします。

もちろん、ご寄付だけではなく、漆の振興活動に興味をお持ちの方は、植樹や除草作業のボランティアなども募集しておりますので、ぜひご参加ください。

よろしくお願いします。​

 

漆を語りだすと、静かな口調が熱を帯び始める佐々木さん。この情熱が多くの人を巻き込み、社会にうねりを起こしていくことを願わずにはいられません。

 

漆の森へ

車は細い山道を入っていきます。覆い被さってくるような木々のエネルギーに圧倒されます。

車を止めしばらく歩くと、條々とした山の中に規則正しく幹を並べる森が見えてきました。

幾重にも連なる細長い幹。枝々に茂る丸みを帯びた葉。枝先には小さな黒い果実(種子)がブドウの房のように実っています。

漆の森です。

 

先代がウルシノキを植樹したものの、家業を継ぐ人がおらず、長年放置されていることがあります。

この森もそのひとつ。ここには270本のウルシノキがあるとのこと。

細越さんは所有者と相談を重ね、来年の夏には漆掻き職人が森に入ることになりました。

ここは細越さんが見つけた漆の森です。稀に幸運が重なり、このような手つかずの漆の森を見つけることがあるのだそうです。

人知れずひっそりとそこにあった漆の森。

ウルシネクストが苗木を提供している盛岡や福島のウルシノキ畑も、10年後、15年後にはこんな美しい森となり、漆掻き職人が樹液を採取し、また新たなウルシノキを育てる。

そして、最終的には私たちの生活に漆の恵みを与えてくれる。そんな循環を見たような気がしました。

 

JR山田線 上米内駅

 

漆の発信基地へ

JR山田線「上米内駅」。地元に住む細越さんが、東日本旅客鉄道株式会社盛岡支社と共同で、クラウドファンディングにより、上米内の集いの拠点として駅舎を大幅にリニューアルし、今年4月にオープンしました。

駅舎の入り口には漆を掻いた後の木が何本も貼り付けられています。

漆工房や漆商品の展示スペース、そして廃校で不要になった椅子やテーブルを再利用したカフェのような待合室。古いオルガンが懐かしい。

展示販売スペースには、国産漆器や漆染め抗菌マスク、チューブに入った生漆もあります。

これらは、佐々木さんや細越さんのお仲間で、「株式会社 浄法寺漆産業」代表取締役社長の松沢卓生さんが扱っている商品です。

 

リニューアル以降、休日には多くの人が訪れる上米内駅。

ここを地域の交流拠点とし、国産漆を多くの人に知っていただく場所にしたいと細越さんは話します。

 

長い年月を森で過ごし、やがてさまざまな形で私たちの元に届く漆。

触ることができなかったウルシノキの代わりに、漆染めの抗菌マスクをひとつ購入しました。

 

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https://www.urushinext.org/

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~ご支援のお願い~

お金をまわそう基金では、特定非営利活動法人ウルシネクストへの寄付を受け付けています。

いただいたご寄付は、主要産地の岩手県や原発事故による耕作放棄地の活用を模索している福島県などに植樹するウルシノキの苗木の購入費に充てられます。

ウルシネクストは国産漆の保護・振興と過疎化する地域の活性化を目指し、漆の森づくりに取り組んでいます。

みなさまのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

 

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