未来へのギフト ~ウルシネクストの「漆の森づくり」~

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未来へのギフト ~ウルシネクストの「漆の森づくり」~

見えない敵との闘い

いま、世界中が新型コロナウイルスと闘っています。

私たちは、目に見えず、色も匂いもない敵との闘いの難しさと、日常の暮らしの有難さを、この数か月で思い知らされています。コロナ禍の影響はこの先も長引くと予想されており、私たちの生活は「After Corona」ではなく「With Corona」へと変化させていく必要があると言われています。

9年前から目に見えない敵と闘い続けている村があります。
福島県飯舘村。2011年3月11日、この阿武隈山系北部の高原に開けた美しい村は、震度6弱の揺れに襲われました。

地震の被害はさほど大きなものではありませんでしたが、福島第一原発事故の影響により、全村避難となりました。原発から40キロも離れているにもかかわらず、すべての住民が村から出て行かなければならなかったのです。

村の風景は昨日と変わらないのに、美しい山々や大切な田畑、住んでいた家屋まで、放射能汚染によって近づくことを許されない場所となりました。

この日から、飯舘村の闘いは始まったのです。

放射能は見えない。その存在を示すのは線量計だけです。風評被害など放射能以外の敵まで加わった足かけ10年に及ぶ飯舘村の闘いは、いまコロナ禍にある私たちに多くのことを教えてくれます。

飯舘村前田地区・除染土 (2015年12月)

 

耕作放棄地にウルシの苗を植える

飯舘村の村議会議員 佐藤健太さんに「漆の産地化」への期待をお聞きしました。

前列左から2人目が佐藤健太村議会議員(2019年植樹メンバー)

全村避難から6年後に一部の地域を除く地区の避難指示が解除されました。避難指示解除から3年、村内に住む人口は震災前で6,500人だったのが、現在は1,500人程となっています。

長い避難生活を経て、村の自宅に戻ることはあきらめ、避難していた福島市などに家を建て、そこから村内の職場に通っている人もいます。

帰村が叶っても、原発事故以前の暮らしに戻れるわけではありません。避難による担い手の急激な減少と放射能の影響とで、かつて水稲や花き、畜産などに力を入れてきた村の産業は衰退し、多くの農地が耕作放棄地になっています。

昨年5月、村の耕作放棄地を活用した農作物に代わる新たな産業育成として、漆の産地化を検討し、試験的に村内3カ所に約600本のウルシ苗木の植樹を実施しました

飯舘村の冷涼な気候は、日本一の漆の産地・岩手県二戸市浄法寺と似ていることや、福島には会津塗の文化があり、漆に関しての技術的な連携も図りやすいことなども取り組むきっかけとなりました。

漆は、素材として合成樹脂であるプラスチックに代えて様々な分野で新しい製品が開発できる可能性があります。国連が主導するSDGs(持続可能な開発目標)に合致した、新たな産業に育てられるのではないかと考えています。

今年も5月中旬に植樹を行いました。コロナ禍の影響で地元のメンバーのみの参加となりましたが、少しずつ漆の産地化を進めています。

 

今後の飯舘村の産業の在り方を探る、この「漆の産地化」を支援しているのが「特定非営利活動法人ウルシネクスト」です。

 

ウルシネクストの活動

伝統の漆塗り

ウルシネクストは、「漆を増やす、活かす、使う、伝える」という活動を通じてSDGsに取り組み、未来の人々も幸せに生きられる「自然と共生した持続可能な社会」の実現を目指すNPOです。

漆は縄文時代から日本人に深く関わり、日本の文化、芸術、建築、生活を支え、そして外国人をも魅了する優れた工芸品を支えてきました。

しかし、現在は国内需要の97%を海外(主に中国)からの輸入に頼り、国宝や重要文化財の修復に必要な漆すら国内で確保できない状況に陥っています。国産漆は危機的な状況なのです。

日光東照宮:境内に国宝8棟、重要文化財34棟を含む55棟の建造物が並び、建物には漆や極彩色が施されています。

ウルシの木は自生しません。人が植樹・管理をしなければ増やすことができないのです。成木になるまで10年から15年を要する一方、育ったウルシの木から採れる漆の樹液は1本あたり200ml程度で、採取後にその木は役目を終え伐採されてしまいます。

つまり毎年継続して植え続けないと、増えないばかりか、現状の本数も維持することが出来ず、いずれ日本からウルシの木の資源は消滅してしまいます。ウルシの木を育て、漆の樹液を生産、供給していくためには、⾧期的な取り組みが不可欠です。

全国生産量の約70%を生産する岩手県や、原発事故による耕作放棄地の活用を模索している福島県などでは、漆の振興の必要性に共感し、過疎化する地域の活性化にも繋げようと、植樹活動の取り組みを行う動きが出てきました。

そのような経緯から、岩手県盛岡市と福島県飯舘村での植樹が実現したのです。

ウルシの苗木づくり

 

漆の産地化を目指す

ウルシネクストの代表 柴田幸治さんは、飯舘村の「漆の産地化」事業についてこう語ります。

「農作物に代わる新しい産業として漆の産地化に取り組んでみたい。」

この声を聞き、私は2019年の1月に初めて飯館村を訪れました。

何年も前に避難指示が解除されて除染作業も完了しているとは言え、ひっそりとした村の中心部、そして延々と広がる放棄された農地。

村の復興、産業の立て直しは緒に就いたばかりであることは明らかでした。

「耕作放棄地にウルシを植え、漆の森を作り、そこから新たな産業を育てる、希望をもって挑戦してみたい。」

私は熱く思いを語る飯館村村議の佐藤健太さんの言葉に心を動かされました。

時間はかかりますが、私たちは未来に向かって前に進もうとする飯館村の皆さまと共に、この事業に取り組んでいきたいと思います思いが結実し、飯館村が以前にも増して豊かで愛される村となることを信じております。

東日本大震災の被災地はいまだ復興途上です。その中でも、飯舘村をはじめとした原発事故の被害を受けた地域の、見えない敵との闘いは終わりが見えません。

除染が進んでも、原発事故以前のような産業は望めない以上、それに代わる産業を模索していくしかありません。その有力な候補の一つが「漆の産地化」なのです。

 

「東大むら塾」が計測機械を設置している漆畑

漆の産地化には、さまざまな支援がなされています。農業と地域おこしを軸に地域の方々と連携し活動をしている東京大学の学生サークル「東大むら塾」は、漆畑に計測機械を設置し、気温、地温、水分量などのデータと定点カメラによるリアルタイム映像の提供で保守・管理を支援しています。

 

子どもたちに残せるもの

2020年4月、飯舘村では小中一貫の義務教育学校「いいたて希望の里学園」が開校しました。

新しい学校の生徒は小中あわせて65人。この子どもたちは飯舘村の希望を背負い、同時に、放射能や風評被害に加えて、さらに新型コロナウイルスという見えない敵が加わった困難な闘いの中、歩み出したのです。

私たちは飯舘村の子どもたちに何を残せるでしょう。

未来に向かって届けるギフト。その一つが「漆の森づくり」だと私たちは考えます

2020年4月、「いいたて希望の里学園」が開校しました。

皆さまのウルシネクストへのご寄付は、危機的な国産漆を守るための「漆の森づくり」に寄与するだけでなく、飯舘村をはじめ漆の産業化を模索する地域での継続的な植樹を可能にし、地域振興、震災復興に大きく貢献します。

 

~ご支援のお願い~

お金をまわそう基金では、特定非営利活動法人ウルシネクストへの寄付を受け付けています。頂いた寄付は、「漆の増産による文化財の保護と地域の活性化を目的とした漆の森づくり事業」に充てられます。皆様からのご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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