障害の程度に関わらず、日々の生活の中で新しい経験や学び、沢山の幸せを感じることができる喜びを大切に、安心して暮らせる地域や社会づくりを目指すNPO法人Lino。
皆を明るく照らし結びつけるような存在でありたいという思いを、ハワイ語のLino(輝く・結びつく)に込めて、2018年の7月に代表の杉本ゆかりさんが設立しました。障害をもつ子どもとそのご家族が、社会との交流を図るための様々なイベントを企画しています。
そのイベントの一つである「インクルシネマ」が、8/30(日)にイオンシネマむさし村山で開催されました。
インクルシネマって何?
「インクルシネマ」は、映画館の一つのスクリーンを貸し切り、障害のある人もない人も誰もが鑑賞できるという映画イベントです。「インクル」には、英語の「inclusive(すべてを含んだ、包括したなど)」から、「誰もが楽しめる」の意味を込めました。
一般の人々にとって映画館は、友達や恋人、家族と行く気軽なお出掛けの一つです。ですが、車いすの座席数が少なく、静かな鑑賞を求められる映画館は、音が出るモニターなどの医療機器の使用や、医療的なケアが必要な方々とそのご家族にとって、とてもハードルが高い場所なのです。
そのような方々が気兼ねすることなく、家族が一緒に参加できるよう様々な工夫を凝らし、Linoは同映画館の協力を得て2019年2月に初めてのインクルシネマを開催しました。それから10回以上の開催を続け、のべ700名以上の方が参加されています。
今春からの新型コロナウィルス感染拡大の影響で開催を見合わせていた時期もありましたが、今回は消毒の徹底や人数の制限を行った上で開催されました。
今月の映画は「映画ドラえもん のび太の新恐竜」です!
映画館の定番と言えばポップコーン。巨大なポップコーンや色とりどりのポップコーンが、映画館らしい気分を盛り上げます!
このポップコーンやドリンクは、株式会社ケイアイさまに差し入れいただいているものだそうです。株式会社ケイアイは1936年創業、日本で初めて車いすを作ったと言われている老舗の会社です。
共通の知り合いを通じてインクルシネマのイベントを知った三代目の社長、北島さんがLinoの理念に共感し、昨年より毎回協賛されているとのこと。今回は久しぶりの開催ということで、北島さんご本人も映画館に駆けつけました!
受付やポップコーン等の配布は、Linoのボランティアスタッフさんが行います。障害児のご家族だったり、杉本さんの職場のご友人だったりと、様々な立場の方が関わっています。
映画スタート!けど暗くない…
いよいよドラえもんがスタート。映画館と言えば静けさが求められますが、インクルシネマでは軽い話声も問題なく、リラックスした雰囲気です。
貸切上映なので、ストレッチャータイプの車イスもフラットのままや好きな角度に調整しながら鑑賞ができ、抱っこで観たりマットにゴロゴロしながらの鑑賞も可能です。吸引やモニターアラームの音も、気にする必要がありません。
手元やお子様の顔色も確認しやすいよう、シアター内は通常よりも少し明るめの照明にしています。
Linoの代表の杉本さんは、参加者の状況をみて問題なければ照明を全部落としたり、音のボリュームも調整したりと、イオンシネマのご担当の方と連携して参加者の皆さんが楽しい時間を過ごせるよう、細やかな気配りをされています。
映画の上映中にお時間をいただき、杉本さんにお話を伺いました。
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Linoを始めたきっかけと思い
障害のある自分の子どもが特別支援学校(※)を卒業した後に、「行かせたい」と思える場所がなく、学べる場所を作りたいと思ったのがきっかけです。
※特別支援学校:障害者や身体の弱い子どもが、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を受けたり、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を学ぶ学校
障害のない子が高校を卒業したら、専門学校や大学に進学したり、留学や就職するなど選択肢は色々ある中で、学び、成長していく時期ですよね。けれども、特別支援学校に通っている多くの子ども達は、生活介護(※)や就労支援など選択肢が限られています。
※生活介護:障害者支援施設などの施設で、日常的に介護を必要とする方に対して、主に日中、食事等の介護、その他の必要な日常生活上の支援、創作的活動等の機会の提供等を行う、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス
これらの場所は幅広い年齢の方々と一緒の活動を行うことも多く、成長発達や学びを深める青年期だからこそ経験したい事や今までの学びを生かし活動していくには十分ではないと感じました。
重度の障害を持ち特別な支援を必要とする子どもたちは、一般的な子どもたちに比べると、人とコミュニケーションをとる方法を学ぶのに時間をかける必要があります。
表現がうまくできない子でも、ICT機器等を活用して自分の気持ちを表現することができるのですが、そのようなスキルを学ぶ時間が現状では圧倒的に足りないんです。卒業後、個別に伸ばしていく事が出来る学びの場を作っていきたいですね。
また、学びの場だけではなく、地域の人とのかかわりや余暇の過ごし方など、生活を総合的に考えると、一般的な商業施設や企業、他の事業所と連携してつながりを作っていくことも必要です。
親も年を取っていくので、子どもが中学生・高校生になる頃には「自分が亡くなった後に、この子がどうなるのか」と、悲観的に考えてしまいがちです。
けれど、親が亡くなった後も地域で支えながら安心して生きていける社会を作っていけば、未来を悲観することなく安心出来る。Linoの活動が、そういうロールモデルになればと思っています。
活動をして「良かった」と感じること
障害児のご家族が、「家族みんなで一緒に出掛けられてよかった!」と言ってくれた時です。
一般的には当たり前だと考えられている事も、障害をお持ちの方がいるご家族にとっては、お出かけを諦める事も日常なのです。
ですが、このインクルシネマに参加した方から、「家族で映画を観るなんて一生できないと思っていた。」「ハードルが下がって、気軽な選択肢の一つとして来られる」と言われたときは、とても嬉しかったです。
また、Linoでは沖縄への海洋リハビリ体験ツアーを開催しています。旅行や海もハードルが高い。「怖いし、やったことないから、旅行なんて無理」という風におっしゃっていた方が、私が積極的に声をかけて参加された後、「色々大変だったけど、やり切った」「自信がついた」「生まれて初めて家族で旅行ができてよかった!」と言われたとき、とても嬉しかったです。
慣れてないことは戸惑うけど、それは誰でも同じですよね。その気持ちに寄り添い、支えることが最初の一歩を踏み出す勇気に繋がると思います。
活動をする中で壁に感じること
「自分がもう3人くらいほしい!」と思うくらい、もっとやりたいことが沢山あります。
今回Linoのパンフレットを作るにあたり、設立してから実施した内容を記載しましたが、毎月必ず1回以上活動やイベントを行ってきました。丸2年やってきて、変えることができた部分もあるけど、まだ全然足りないな、全然届いていないことがあるなと思います。
インクルシネマのモデルをブランディング化したり、もっと企業のニーズを引き出して連携したり、活動が一人でも多くの人に広がるためにはどうしたらいいかと試行錯誤しています。
10年後に目指す姿
当たり前に障害児がいる、という社会にしたいです。
大人が子どもを連れてきて、子どもが友達を呼ぶ、その中に障害がある人もない人もいる、という環境を作っていきたい。
人と違うことも認め合い、当たり前に受け入れる事が出来る社会にしていきたいと思います。障害の有無により教育や生活環境が分かれていない福祉の発達した諸外国と比べると、日本はまだまだ「自分と違う」ということにあまり慣れてはいない社会である為、障害児・者に関する一般の人の認識やサポート体制も大きく異なると実感します。
子どもたちが与えてもらう当たり前の幸せを、楽しみを、どんな子でも平等にもらうべきだし、その経験は子どもにとってすごい大事で残るものだと思います。自分も親に色々な経験をさせてもらったから、気づけたこと、学んだことが沢山あります。
今はそれができづらい状況ですが、必要なものを補う何かが当たり前にそこにあり、望むことができる、親ができなくても他の人が補える、そういうサポートがある社会を作りたいですね。
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2時間強の映画が終わりました。参加された親御さんが、帰り際に「いつもありがとう、また来ます!」と、笑顔でお話しされていたり、障害児のお子さんたちも、ニコニコ顔で満たされた雰囲気だったのが印象的でした。
誰もが学べる社会を!
一般的な生活をする多くの人は、映画や音楽などの芸術、自然や人との交流等を通じて、ささやかな幸せや心が震えるような感動を味わった経験があると思います。
そういった経験が生きる糧となり、人生を彩りある豊かなものにしていくと感じたことのある方は多いのではないでしょうか?
今日、障害のある方とそのご家族は「障害がある」ということで選択肢が限られ、できる経験も限られてしまうのが現状です。
ですがLinoの活動は、障害のある人もない人も同じように多くのことを学び、経験し、感動する、そういうことができる社会づくりの先駆けとして、思いのある人を巻き込みながら着実にその影響の輪を広げつつあります。
色々な人がいて当たり前の世の中に、やさしい気持ちでいられる社会を皆で作っていきたい。
Linoのその思いの実現に向けて今後の活動の幅を広げていけるよう、皆さまのご寄付という形で多くの方にサポートしていただければ幸いです!
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