学習の機会に恵まれない子どもに無償の学習支援を
福岡空港から博多駅へ。鹿児島本線に乗り換えると6分ほどで南福岡駅に到着します。
南福岡駅は福岡市博多区にありますが、車で少し走るとすぐに春日市須玖南へ(シャレではありませんが、「須玖」は「すぐ」と読みます)。
ここに「特定非営利活動法人福岡教育サポート」が運営する「春日英数塾」はあります。
車を降りると、代表理事の森茂男さんがにこやかに出迎えてくださいました。
森さんは、福岡市の公立中学校で19年間勤務した後、私立の中高一貫校に赴任。現在、数学科・情報科の教諭を務める傍ら併設の大学でも非常勤講師として教壇に立たれています。
福岡教育サポートは経済的な理由で希望の進路を断念せざるを得ない生徒たちを救いたいという森さんの思いから、2016年に設立されました。
福岡教育サポートが運営する学習塾「春日英数塾」では、塾などに通えない子どもに無償で勉強を教え、子どもたちの学力向上と進学や進路の保証に力を尽くしています。
花のようなボランティア講師と生徒たち
春日英数塾はアパートの3部屋を借りて運営しています。訪ねた日は2部屋を塾として、1部屋を自習室として使っていました。
大学生になった森さんの教え子たちが、ボランティア講師として英語と数学を教えています。みな清楚で可愛い。そして賢い。殺風景な教室に色とりどりの可憐な花が咲いているようです。
授業はすべてマンツーマン。基本的に一人の生徒を一人の講師が最後まで担当し、個々のレベルに応じたきめの細かい学習指導を行っています。
受験を控えた生徒を受け持つ講師に「プレッシャーは感じませんか?」と尋ねたところ、「そうですね。責任感を持って当たらないといけないと思っています。」という頼もしい言葉が返ってきました。
講師たちの品のある佇まいや言葉遣いは、生徒の良いお手本になっているようです。この塾は人間教育の場としての一面も持ち合わせているのです。
教育格差への義憤も支援のエネルギーに換えて
森さんのお話をお聞きするために自習室へ。そこには夏の空のような清々しいセーラー服姿の女子が二人。
日本で初めてセーラー服を制服に制定した近くの女学院の生徒さんです。
突然の闖入者も迷惑がらず、笑顔で迎えてくれる素敵なお嬢さんたち。可愛らしい上に気立ても良いのです。
お二人の自習の邪魔にならないよう気をつけながら森さんにお話を伺いました。
◇ 現在の生徒数は何名ですか?
今は小学生から高校生まで9名の生徒が通って きています。そのうち無償の子どもは5名です。
◇ 有償、無償はどのように決められるのですか?
無償の授業を希望するご家庭のお子さんは、 保護者から世帯収入の証明書を提出していただきます。理事会に諮り承認されれば無償で塾に通ってもらえます。
◇ 福岡教育サポートの現状の課題はどのような ことでしょう?
目下の課題は生徒数を増やすことです。 有償の子どもはもちろんのこと、塾に行きたくても行けない子どもを積極的に増やしていきたいです。
春日市や隣の福岡市でチラシを配ったりしていますが、それだけでなく低所得世帯を把握している社会福祉協議会などで、無償塾の情報を拡散していただけるようにしたいと考えています。
もう一つの課題は、寄付や支援者の拡大です。
先日、講師たちの力を借りてTwitterを開設しました。 情報発信はもっぱら彼女たちに頼ることになりますが、少しでも認知度を上げて活動に賛同してくださる方を増やさなければといけないと思っています。
◇ ボランティア講師の確保は難しくないですか?
幸いなことに教え子が大学生になったらここの講師になる、という循環ができつつあります。
彼女たちはここでの授業が無い日は給料の出るアルバイトをしていて、ボランティアで 協力してもらうのは正直申し訳ない気持ちもあります。
こちらから強いることはできませんが、この塾に力を貸してもらえることは非常にありがたいです。
◇ 今後の展望などがありましたら教えてください。
実は先日、社会人の男性が塾に訪ねてきました。
「経済的に苦しい状況だが、就労のために一から勉強したい」とのことでした。
彼のようなケースも無償で学んでもらえるような体制を徐々に整えていきたいと考えて います。
※後日、森さんからご報告がありました。
「配布したチラシの効果で、その後、生徒が5名増えました。また、6名の高校講師が協力を申し出てくれました。」
とても嬉しいお知らせでした!
森さんの口調は静かで理知的です。ですが、決して堅くなく、ユーモアも解する紳士です。
子どもたちを取り巻く教育格差への義憤も、大きな声を上げたり拳を振り上げたりするのではなく、淡々と、しかし確実に、問題を解決するエネルギーに変えています。
「教育」は貧困の連鎖を断ち切る有効な手段
森さんが福岡教育サポートを設立したのは2016年。当時の都道府県別の貧困率では福岡県がワースト4位でした。
教師として経済的理由で希望の進路を断念した数多くの生徒を見てきた森さんは、窮地に立たされている目の前の子どもたちを救いたいという思いから、福岡教育サポートを設立、私財を投じて塾を開設しました。
平成29年に福岡市が行った調査(※)からは、世帯収入が子どもの生活や家族の気持ちに与える影響を窺い知ることができます。
世帯収入
600万円以上 (n=9,126) |
世帯収入
300万円未満 (n=3,252) |
|
子どもがほぼ毎日家庭学習をしている | 73.7% | 58.2% |
子どもが塾や習い事に通っている | 23.4% | 9.5% |
子どもに不登校経験がある | 4.4% | 11.9% |
経済的理由で子どもが自宅で勉強できる場所がない | 0.8% | 10.9% |
保護者が自分の家庭を幸せと感じている | 81.5% | 57.2% |
※ 「福岡市 子どもの生活状況等に関する調査」(平成29年3月)より抜粋 (市立小学校に在籍する全小学6年生の保護者および市立中学校に在籍する全中学3年生の保護者を対象とする)
子どもの教育については、それぞれの家庭の意思が尊重されるべきですが、経済的理由が子どもから学習の機会を奪い、将来の選択肢を狭めるようなことがあってはなりません。
家庭の貧困は子どもの就学や就職に影響します。家計が厳しいために進学をあきらめる子どもも少なくありません。
親の収入格差が教育格差につながり、進学や就職で不利になって貧困から抜け出しにくくなる「貧困の連鎖」は、今ではよく耳にする言葉となりました。
子どもたちの貧困の連鎖を断ち切り、将来の選択肢を拡げるためには「教育」の力が不可欠です。
令和元年に閣議決定した「子供の貧困対策に関する大綱」では、「教育の支援(学力保障・高校中退予防・中退後支援の観点を含む教育支援体制の整備)」が重点施策として掲げられており、国も子どもの貧困が教育に大きな影響を与えることを重大な社会問題と捉えていることがわかります。
しかし、この問題に対応する施策は一朝一夕には進みません。
いま、まさに経済的な理由で進学をあきらめようとしている目の前の子どもたちを助け、「教育」を下支えしているのは、森さんが行っているような地道な学習支援なのです。
「子どもたちを助けたい」という静かな情熱が生徒たちの学習意欲につながる
訪問した日の夜は「講師総会」が開催されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインでの会議です。
PCの画面は花のような講師の姿でいっぱいです。その中にぽつんと森さんのお顔が見えるのが微笑ましい。
講師は受け持っている生徒の学習スケジュールや成績管理なども行っています。講師総会では生徒たちの現状の把握や、課題の共有、対応策の検討などが話し合われました。
ボランティアで講師を務め、塾のために貴重な土曜の夜の時間を割く彼女たちに頭が下がります。
話し合いの声を聞きながら、教室での生徒たちの様子を思い出していました。
森さんと講師たちの「子どもたちを助けたい」という静かな情熱が、生徒たちには確実に伝わっていて、それが学習意欲に直結しているのだと強く感じました。
「勉強したい」「進学したい」「希望の職業に就きたい」という子どもたちの夢を叶えるため、福岡教育サポートは、無償で学力と進路を保証する活動を続けています。
特定非営利活動法人福岡教育サポートのHPは↓こちらから!
https://fukusapo.wixsite.com/fukusapo/about
福岡教育サポートが運営する「春日英数塾」のHPは↓こちらから!
https://fukusapo.wixsite.com/sugaku
「春日英数塾」のTwitterは↓こちらから!
https://twitter.com/kasugaeisuu?s=20
~ご支援のお願い~
お金をまわそう基金では、特定非営利活動法人福岡教育サポートへの寄付を受け付けています。
いただいたご寄付は福岡教育サポートが運営する塾の家賃等に充てられます。
経済的に恵まれない子どもたちに無償で学習支援を続けるには、みなさまからのご支援が必要です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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