「子どもの貧困」の今

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「子どもの貧困」の今

2008年、金融危機の中で「日本にも貧困の問題がある」として、「子どもの貧困」が注目されました。2012年には子どもの貧困率は16.3%と、この40年間で最も高い値となり、以降2018年までは14%で推移していました。

最新の2021年の調査では、子どもの貧困率が11.5%に低下したのです。

なぜ子どもの貧困率は低下したのでしょうか。この低下にはどのような背景があるのでしょうか。データから読み解きます。

 

子どもの貧困率

「子どもの貧困率」は、「相対的貧困」の状態にある子どもの割合を示しています。

「相対的貧困」は、その国の国民の所得を順番に並べたときに中央値となる額の半分(「貧困ライン」といいます)に満たない所得で生活している状態を示しています。

つまり、「子どもの貧困」は「子どものいる世帯の貧困」なのです。

2021年の日本の貧困ラインは127万円。二人世帯の場合は√2をかけて1年間に180万円、3人世帯の場合は√3をかけて1年間に220万円に満たない所得で暮らしている状態になります。

3人世帯の貧困ラインは1カ月に18万。三人分の衣食住を確保することができ、生きていけないことはないけれど余裕はない、そんな状態が、相対的貧困の境界となっているのです。

 

子どもの貧困率が下がったのは?

では、「子どものいる世帯」で貧困率が下がった要因は何でしょうか。

全世帯の貧困率は2018年15.7%、2021年15.4%と、この3年間でほとんど変わっていません。一方で、「子どものいる現役世帯のうち、ふたり親世帯」の貧困率は11.2%から8.6%に、「子どものいる現役世帯のうち、ひとり親世帯」の貧困率は48.3%から44.5%にこの3年間で減少しています。

厚生労働省「令和4 国民生活基礎調査」に基づき当財団作成

全世帯の平均所得額は2018年552.3万円から2021年545.7にこの3年間でほとんど変わっていません。一方で「子どものいる世帯」の平均所得額は2018年の745.9万円から785万円に39万円上昇しています。子どものいる世帯のうち「母子世帯」の平均所得額も306万円から328.2万円に22万円上昇しています。

つまり、子どもの貧困率が改善されたのは、「子どものいる世帯」において所得額が増加したためと考えられます。

厚生労働省「令和4 国民生活基礎調査」に基づき当財団作成

では、「子どものいる世帯」において所得額の増加はどうして生じたのでしょうか。

グラフを見ると、この所得額の上昇の要因は、主に「稼働所得」つまり働いて得た所得が増えたこととなっています。

一般労働者の賃金は、平均で2018年に306.2万円、2021年に307.4万円とこの3年間でほとんど変わっていません。それなのに「子どものいる現役世帯」の働いて得た所得が上昇した背景には、女性の就業状況が関係していると考えられます。

厚生労働省「令和4 国民生活基礎調査」に基づき当財団作成

2019年の子どものいる女性のうち仕事があるのは70.1%でした。2021年では、73.3%に上昇しています。そのうち、より高い賃金が期待できる正規雇用が25.3%から29.5%に増えています。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2022」より

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査においても、2018年から2022年にかけて、ふたり親世帯の母親の就業率が上昇し、正規雇用が増え、非正規雇用が減少している様子がうかがえます。

仕事をする子どもを持つ女性が増えたこと、そのなかでもより高い賃金が期待できる正規雇用の女性が増えたことが、子どものいる現役世帯の所得の上昇に大きく寄与していると考えられます。

 

深刻な貧困の増加

現役世帯の所得の上昇状況についてもう少し詳しくみてみましょう。

「子どもがいる現役世帯 大人2人」の所得の分布を見ると、2018年と比較して2021年では貧困ライン付近となる「120~140万円未満」とそれより下の所得層の割合が全体的に減少しています。これが貧困率を下げる要因となっています。

厚生労働省「令和4 国民生活基礎調査」に基づき当財団作成

「子どもがいる現役世帯 大人1人」の所得の分布をみると、2018年と比較して2021年には「100~120万円未満」・「120~140万円未満」の貧困ラインに近い層が大幅に減少し、「200~240万円未満」に大幅な増加があります。その一方で、「60~80万円未満」が増加しています。

厚生労働省「令和4 国民生活基礎調査」に基づき当財団作成

ひとり親世帯の中では、貧困ライン付近となる「120~140万円未満」以下の所得層の割合の合計は減少しています。これが貧困率を下げる要因となっています。

しかし、貧困ラインに近い所得で暮らさなければならない層は大きく減少しているものの、貧困ラインよりもさらに少ない所得で暮らさなければならないような、深刻な貧困世帯の割合は増加しているのです。

 

生活の実感から見る貧困

生活にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

まずは生きていく上で必要な食料と衣類についてみてみしょう。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2022」より

「過去1年間に食料を買うお金がなかった」かどうかについて、ふたり親世帯の9世帯に1世帯、母子世帯の3世帯に1世帯が、過去1年間に食料に困る状況に陥ったことがありました。

「過去1年間に衣類を買うお金がなかった」かどうかについて、ふたり親世帯の7世帯に1世帯、母子世帯の2.5世帯に1世帯が、過去1年間に衣類を買うのに困る状況に陥ったことがありました。

 

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2022」より

続いて子どもの貧困の影響として挙げられる「学力格差」、「体験格差」に関連するものとして、子どもの学びと成長に必要な習い事と学習塾についてみてみましょう。

小学生の頃に体験活動(自然体験・社会体験・文化的体験)や読書、お手伝いを多くしていた子どもは、高校生の頃の自尊感情が高くなる傾向がある、との調査が文部科学省から公表されました。この体験活動の経験が親の経済状況によって左右されるという「体験格差」。「子どもの習い事」について負担できるかどうかについて、ふたり親世帯の3世帯に1世帯、母子世帯の2世帯に1世帯が、子どもの習い事を負担するのに困難を感じていることが分かります。

親の経済状況により生じる「学力格差」。子どもの教育への熱心さや学費の支払い、塾の費用を払えるかどうかによって生じます。「子どもの学習塾」について負担できるかどうかについて、ふたり親世帯の3世帯に1世帯以上、母子世帯の1.5世帯に1世帯が、子どもの学習塾を負担するのに困難を感じていることが分かります。

 

まとめ

子どもの貧困率は11.5%に低下しました。この低下の大きな要因の一つは、子どものいる女性が仕事をすることが増えたこと、より高い所得を期待できる正規雇用で働くことが増えたことです。

その一方で、特にひとり親世帯で、貧困ラインよりもさらに少ない所得で暮らす、より深刻な貧困状態にある世帯の増加がみられます。

生活の実感において「食料品や衣類を買うお金がない」といった、生きるうえで必要なものを買うことのできない厳しい状況にある世帯も依然としてあります。