プラネタリウムから「境界線」のない社会を考える

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プラネタリウムから「境界線」のない社会を考える

一般社団法人星つむぎの村は、「星を介して人と人をつなぎ、ともに幸せを作ろう」をミッションに、プラネタリウム、星空観望会、星や宇宙に関するワークショップなどを展開しています。その活動の中の一つに「出張プラネタリウム」があります。これは、病院等の施設に赴き、病気や障がいのため本物の星空を観に行く機会が持ちにくい方やそのご家族に、天井投影等でプラネタリウムを体験してもらうものです。

今回、9月10日に神奈川県横浜市の鴨志田ケアプラザで開催された「出張プラネタリウム」に参加させていただき、障がいのある・なしの間にある「境界線」の存在について考えました。

 

 

貴重な非日常体験を楽しむ

「出張プラネタリウム」のすごいところは、プラネタリウム施設に行かなくても星空を楽しむことができる点です。例えば「天井投影」の場合は、天井が白く真っ暗にできる部屋なら、どんな部屋でもプラネタリウムにできてしまうのです。

今回の「出張プラネタリウム」は、横浜市にある特別支援学校・養護学校に通う肢体不自由の子どもたちの親の会「未来の樹・あおば」さんの依頼を受けて企画されました。アクセスしやすい地域施設での開催は、遠くまで外出することが難しい方々にとっては貴重な機会だったことでしょう。

会場として使われた多目的ホールは、普段は机と椅子がならぶ一般的な会議室ですが、部屋の机や椅子を端によけ、柔らかいマットが敷かれています。今回参加された3組の障がいのあるお子さんとそのご家族の皆さんは、不思議な雰囲気に若干戸惑いつつ、スタートを待ちます。

 

 

時間になり、共同代表の跡部さんから星つむぎの村の説明の後、いよいよプラネタリウムがスタート。参加した皆さんは、ゴロンと寝ころび天井を見上げます。同じく共同代表の高橋さんが語り始め、部屋の電気が消えプロジェクターが投影されると・・・天井には、美しい星空が広がりました。

 

 

地球も、びっくりするくらいリアルに美しく天井に映し出されます。

 

 

はじめは真っ暗になって緊張気味だった子ども達も、高橋さんの優しい語り声や美しい映像に慣れてくると、声を上げて喜びを表したり身体を動かしたりして、リラックスしていく様子が感じられます。

 

約40分程、多目的ホールの一室で、宇宙旅行さながらの非日常的な空間に包まれた皆さん。

参加された親御さんからは、「子どもが声や音を出しても問題ないので気兼ねなく楽しめました」「とても癒されました・・・」「明日からまた頑張れます!」「今度は家族で本当の星空を見に行きたいです」などの感想が寄せられていました。

普段は遠出することが難しいご家族が、「地域の施設で開催されるなら」と足を運ぶことができた、約40分のプラネタリウム。ご家族の皆さんの気持ちをリフレッシュし、元気づける時間になったことが、その表情から感じられます。

 

 

すべての人に「星空を楽しんで欲しい」という思い

星つむぎの村は2017年に一般社団法人としてスタートしましたが、もともとは別々に行われていた2つの活動がベースにあります。そのうちの一つが、山梨県立科学館のプラネタリウムでのワークショップがきっかけで生まれた「星の語り部」というボランティアグループです。小学生から 60 代の幅広い年代のメンバーが参加し、市民向けの無料プラネタリウム上映や本の出版等を行っていました。

「星の語り部」には視覚などに障がいを持つメンバーがいたこともあり、跡部さんと高橋さんは「すべての人と星や宇宙を共有する」ことをめざして様々な工夫を凝らしてきました。

例えば目の不自由な人に対しては、画像と音楽だけでなく言葉を中心としたプログラムを実施したり、ろう学校の団体が来た際は、リアルタイムで解説に手話をつけたりして、プラネタリウムを体験してもらったのです。

 

 

 

 

「境界線」を考える

障がいのある方が外出する場合、障がい者対応ができるかの下調べや事前準備、場合によっては事前連絡や交渉などが必要で、一般の人と比べると手間と時間がかかるため、ご家族を含め気軽にお出かけができず外出自体を諦めてしまう傾向があるそうです。

障がい児と家族をサポートする団体のスタッフの方から、「飛行機の搭乗にあたり、医療機器の持ち込みが必要な為事前に連絡し当日空港に行ったにも関わらず、『やはり難しい』と断られてしまうというケースもあった」「定期的に音が発生する器具や治療が必要な人にとっては、映画やコンサート等、静かに鑑賞する必要がある場所に行きづらい」と伺った時は、障がいのある・なしによっての違いに衝撃を受けました。

もし仮に、自分や家族が車椅子だったら、どうやって行きたいところに行けばいいのだろうか?

年に何回か行く美術館を調べてみると、施設自体のバリアフリー対策はウェブサイト上に分かりやすく記載されていて、問題なく鑑賞はできそうでした。ですが、家から美術館に行くまでの電車を考えた時、「駅員さんが付き添い、車椅子で電車を乗り降りする人を見かけたことはあるけど、いつサポートを依頼すればいいのか」「美術館に行く最寄りの〇番出口にはエレベーターがないから、別の出口から出て交通量も人通りも多い横断歩道を渡らないといけない」など、不安に感じることが沢山ありました。

また、仮に耳が不自由だったら?

興味のあるセミナーやイベントに参加したいけど「『手話』や『字幕』などの対応があるのか?」を問い合わせないといけません。「依頼すれば、対応してくれるのだろうか?もし『できない』と言われた場合は、学ぶ機会を得られないのだな、、、」と、思いました。

2016年に施行された障がい者差別解消法で、行政機関には障がいのある人に対する合理的配慮(※)を可能な限り提供することが求められるようになりました。2024年4月からは改正され、民間の事業者についても合理的配慮が義務付けられることになります。

様々な対応が進みつつありますが、もし自分や家族が障がいのある状態だったら、と思うと、今の社会には高いハードルがあるように感じました。

※障がいのある人が、障がいのない人と同じように平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、過度の負担なく個別に調整すること。スロープや筆談器の設置等

 

 

「境界線」のない社会を目指して

令和4年度に公表された厚生労働省障害福祉課「障害福祉分野の最近の動向」によると、国内の障がい者の総数は964.7万人。国内人口の約7.6%の方に、何らかの障がいがあるということになります。この数字は高齢化等の社会環境の変化を受け年々増加傾向で、2006年の655.9万人と比較すると300万人以上も増加しており、障がいに対する社会の認識も高まりつつありますが、十分な対応ができているとは言えない状況です。

星つむぎの村は、法人化後も「語り部」が持っていた「すべての人と星や宇宙を共有する」という思いはそのままに、病院や療育施設でのプラネタリウムや被災地での星見イベント、さまざまな場所でのワークショップ等の活動で、沢山の人に心の癒しと明日への希望を提供し続けてきました。

ただただ、みんなで一緒に星を見たい。それだけなんです。」と笑顔で仰る跡部さん。

星つむぎの村のように、より多くの人が「障がいの有無に関係なく皆が参加できる」という目線を持ってイベントを企画したり仕組みを考えたりしていくことで、健常者目線だけでできていた社会構造を少しずつ変化させ、障がいのある・なしの間の境界線をなくしていくことができるのではないかと、今回のイベントを通して感じました。

 

 

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