2019年に内閣府が発表した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」から明らかになった、51.8%もの若者が強く感じている「自分は役に立たない」という思い。NPO法人アスリードは、若者が「働く大人」と出会い「やりたいこと」を見つけるきっかけを作るべく、神奈川県内を中心に学校・地元企業・地域の大人たちと連携し、若者たちの未来につながるさまざまな体験事業とメディア事業を展開しています。
2022年10月28日、アスリードは神奈川県藤沢市の長後中学校で体験事業の一つである「みらいTeacher」のプログラムを実施しました。「もし自分が中学生に戻ることができるなら、是非この授業を受けてみたかった!」と思うような、刺激のあるプログラムでした。
「みらいTeacher」とは?
現在中学校や高校などの教育現場で行われる「キャリア教育」は、子どもたちが自分の“在り方”や“生き方”を考え、未来を生き抜く力を育んでいくための重要な取り組みです。アスリードが取り組む『みらいteacher』はさらに一歩踏み込み、先生役となる講師自身の人生の紆余曲折や大切にしている価値観などを可視化し、子どもたちが大人たちとともに“生きる・働く”について対話していくプログラムです。
子どもたちが自分自身の“可能性”を信じて“自信”を持って未来を描ける社会を創るために、学校や企業、行政といった枠組みを超え、地域一丸となって若者たちに「何のために働くのか」「自分がどんな仕事に就き、どう生きていくか」について学び、考えていく機会を提供してます。
共同代表理事の武政祐さんは、「学生時代に、もっと将来のことを真剣に考える機会を持つべきだった」というご自身の経験から、中高生向けに様々な職業を紹介する冊子制作に携わるようになり、現在に至ります。
武政さんは、「高校生向けのキャリアプログラムを提供する団体は数多くありますが、中学生向けはそれほど多くありません。私たちは、若いころから社会で働く人たちに出会い、色々な選択肢や可能性を知ることが大切だと思っています。」と仰います。
「みらいTeacher」プログラムの魅力
「みらいteacher」は、中学校や高校の「総合的な学習(探究)の時間(※)」の中で行われます。
実施を希望する学校の担当の先生から希望の授業内容をヒアリングしたうえで、アスリードの会員企業112社(※2023年2月現在)の中から、5~10社ほどをコーディネートします。授業前には生徒向けの準備講座を、授業後には振り返り講座を実施し、それぞれの学校が生徒たちに育みたい“力”に合わせて、オーダーメイドで授業の企画から運営までを支援します。
また、「みらいteacher」として登壇する地域企業の社員の方にもガイダンスを実施し、授業の目的や生徒との関わり方についての情報共有を行っています。
アスリードのキャリア教育の特徴は、若者も大人もともに学び成長する「キャリア“共育”」。「みらいteacher」として登壇する大人にも、この活動が自己のキャリアの棚卸しの機会となるよう研修を実施し、新たな気づきを得たり、自分が大切にしたい価値観をアップデートするきっかけを提供していきます。
※「総合的な学習(探究)の時間」:中学・高校において、探究的な見方・考え方を働かせ横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力の育成を目指すもの
当日の様子
今回は、長後中学校のある神奈川県藤沢市を中心とした6つの会社の方々が「みらいTeacher」として集まり、中学2年生約100名を対象に授業を行います。6社の社会人講師の社員の皆さまは、校舎1階の会議室に集合。アスリードの事務局からの説明を受けた後、受講するクラスの生徒の代表がお迎えにくるのを待ちます。
初対面の人を相手にするせいか、生徒たちは少し恥ずかしがりながら緊張した面持ちで現れますが、ワクワク感もにじみ出ています。
授業は午後の時間を使って各社2回ずつ行い、生徒はそれぞれ興味のある会社を2つ選んで受講します。午後1時過ぎから授業がスタート。それぞれの教室で、「みらいTeacher」による講義とグループワーク、体験活動が始まりました!
いたずら防止ねじ等、様々な「ねじ」を取り扱う同社の、手首ほどの大きななねじから米粒ほどのねじに、生徒たちも興味津々。普段は注目することの少ない「ねじ」が、社会でどのように役立っているかを学びました。
湘南に拠点を置く左官・吹付け工事を営む会社で、左官業として90年の歴史の中で確かな技術を学び、伝統ある左官工法の良さを継承し、また新たな左官工法への取り組みを積極的に行っている『職人集団』。生徒たちは漆喰塗りを体験しました!
「テレビに出る政治家の顔は知っていても、藤沢市長の顔を知ってる人は少ない。誰が自分の地域の生活に携わっているかを知るのは大切なことだ」というお話に、生徒たちは真剣に耳を傾けていました。
主にご自宅で介護等が必要な方々の支援のため「福祉用具のコンサルティング」を中心としたサービスを提供、福祉用具のレンタルや販売、自宅改修等を行っています。生徒たちは車いすに試乗しました。
地域の交通安全に貢献する会社。自社の自動車教習所の車を使って運転席に座り、どこが死角になるのか、見にくいのか等を体験。今は歩行者として、将来は運転手としての目線を学習しました。
デザインとエンジニアリングの両面からものづくりのお手伝いをする同社。生徒たちはグループに分かれ、配られた市販されているアイディア製品は何に使われるのかを、想像力をフル稼働して議論しました。
あっという間に2コマの授業が終了しました。最初は恥ずかしがっていた生徒も、講師の方々に「仕事をしていて一番嬉しかったことは?」「この業界のことを事前に調べ、将来働きたいと思っています、年収はどれくらいでしょうか?」「〇〇についてもっと詳しく知りたい」等、積極的に質問する姿も見られました。授業が終わると、それぞれの授業の代表の生徒は講師を1階の会議室にお見送りし、お礼をしながら名残惜し気に帰っていきました。
生徒と講師の感想
授業終了後、先生役を務めた社員の方々で感想を共有しました。
皆さんに共通していたのは、生徒の想像力や、業界や年収に関する具体的な質問など、実際に働くことに対する真剣な姿勢に驚いたという点でした。そのような生徒のまなざしに、働くことの意義を再認識したという声も。
株式会社メディケア―の社員の方が、「『今回の授業を経験して、メディケア―さんのように人の役に立つ仕事がしたいと思った』という生徒さんの感想を聞いて、涙が出そうになりました。」と仰っていたのがとても印象的でした。
生徒からは、「職業体験を木本工業に決めてから『漆喰』について調べ、建物の壁や床、自分の家でも使われていることが分かりました。漆喰塗り体験もとても楽しかったです。」「車椅子に色々な種類があることや、普段どのような仕事をしているかを知ることができて『福祉』という職に興味を持つことができました。」「絵が上手じゃないとデザインの仕事はできないと思っていたけど、そこは問題じゃないと知ってホッとした。」等、今まで知らなかったことに対しての興味・関心が広がったことが感じられる感想が寄せられました。
大人たちとっては、日々当たり前になっている「働く」ということが誰かのためになっているということを改めて気づかせてくれる場、生徒にとっては、普段接点のない「働く大人」の仕事に対する姿勢や思いに触れ、未来に希望を持つきっかけとして、大変有意義な時間だったに違いありません。
今こそ教育への支援を!
人は、年齢に関係なくいつでも学んだり知見を広げたりすることはできますが、「もっと若い時にこれを知る機会があったら良かったのに・・・」と、ふと感じたご経験はないでしょうか。自分自身の社会人になる前の環境を振り返ると、「働くとはどういうことか」「仕事とな何か?」ということを考えたり、大人と話したりする機会がもっとあったら良かったのではないかと思いました。
教育は、将来の選択肢を広げ豊かな人間性を築いていくために重要な要素であるにもかかわらず、緊急性が見えにくいため、支援が後回しになり予算の確保が困難な状況が続いています。
これからの日本を支えていく若者が様々な選択肢や可能性を知り、生き生きと働くことを後押ししたい。そのような思いで活動するアスリードを、是非応援していただければ幸いです。皆さまのご支援をお待ちしております!