中国の伝統芸能「京劇」で福祉支援!

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中国の伝統芸能「京劇」で福祉支援!

世田谷区立千歳台福祉園へ

 

とある暖かな午後、世田谷区にある区立千歳台福祉園に向かいました。

この日は一般財団法人日本京劇振興協会(以下、京劇協会といいます)が京劇を上演する様子を見学させていただくのです。

 

千歳台福祉園は主に重度の知的障害を持った方が日中を過ごす生活介護事業所です。

会場は2階の大きな部屋。新型コロナウイルス感染防止のため、入替制で同じ演目を2回上演します。

 

そのため、人数がいつもの半分になり、観客(利用者や職員のみなさん)はゆったりと観ることができ、演者も広いスペースで演技ができます。

 

京劇ってどんな劇?

 

 

「京劇」という言葉は聞いたことがあっても、実際に観たことがある人は少ないのではないでしょうか。日本ではまだまだ馴染みの薄い京劇とは、どのような芸能なのでしょう。

 

京劇は「中国版歌舞伎」ともいえる中国の伝統芸能で、豪華な衣装と派手なメイクでお芝居を演じます。

 

言葉は中国語ですが、歌、セリフ、舞踊、立ち回りなど、俳優の所作や様式で場面を説明し、物語を進めます。その表現はとてもダイナミック。大道芸的な大技もあるので「ノンバーバル(言葉を用いない)な演劇」として鑑賞できます。

 

また、日本でも良く知られている「孫悟空」や「三国志」などの演目もあり、年代などを問わず誰でも楽しむことができます。

 

京劇は少人数でも上演が可能で、大道具などの設営が必要ないため、会場を選ばないことも大きな特徴のひとつです。そのため、千歳台福祉園のような施設や老人ホームなどでの上演にはとても向いています。

 

この日は京劇を習い始めて6年目の野口くん(11歳)と2年目の李くん(7歳)が「三岔口(さんちゃこう)」を演じ、ベテランの竹口美鈴さんが「覇王別姫・剣舞」の唱と舞を披露します。

 

利用者や職員のみなさんが会場に入って、いよいよ「三岔口」が始まります!

京劇のメイクを施した子どもは、それはそれは可愛らしく、そして凛々しいのです。きらびやかな衣装を身にまとい、流暢な中国語で台詞を話し始める姿に引き込まれます。

 

「三岔口」は義憤が原因で流刑になった将軍・焦賛を暗殺者の手から守るために、彼の後を追いかける武将・任堂恵が、ある宿に到着するところから始まります。宿の主人・劉利華も焦賛の味方で彼をかくまっていたのですが、焦賛の後を追ってきた任堂恵を暗殺者と思い、そして任堂恵もまた劉利華を暗殺者と勘違いしている…というストーリー。

 

最後はお約束通り「なんだ、勘違いだったのか!」で終わるのですが、勘違いでは済まないくらいの格闘シーンが、この演目の見どころです。

 

京劇協会の代表理事 張春祥さん(日本名:潮 新さん)が奏でる独特の効果音に合わせて、いよいよ野口くんと李くんの大立ち回りが始まります。

 

黒闇の中で繰り広げられる決闘。(舞台は明るいのですが)一寸先も見えない真っ暗闇という設定の中で、ダイナミックな殺陣 (たて) と軽妙な立回りが繰り広げられます。闘いの間、台詞はありません。それが余計にハラハラ感を煽ります。

 

大きく振り下ろした剣が、鼻先ギリギリで止まります。側転で相手に近づいたり離れたり。剣が手から離れると、太極拳のような動きで激しい格闘が続きます。と思うと、動きがピタッと止まり、かっこよくポーズを決めます。思わず拍手してしまう見事さ。日頃の練習の成果と身体能力の高さに驚かされます。

と、利用者さんのひとりが立ち上がってぴょんぴょんと踊り始めました。楽しくて仕方ないといった様子で、見ているこちらまで嬉しくなるような光景です。

 

休憩時間に野口くんのお母さんにお話を伺いました。

野口くんは5歳のときに初めて観た京劇に魅せられ「かっこいい!習いたい!」とお母さんにねだったのだそうです。

そこで、お母さんは京劇協会の梅木常務理事に相談。なんと、それが子どものための京劇教室「世田谷こども京劇団」が設立されたきっかけなのだとか。野口くんはコロナ禍で教室が中止になったとき以外、週に2回休まずに教室に通っているそうです。

https://www.shincyo.com/kodomo/

 

「衣装とメイクのおかげか人前でも伸び伸びと演じることができるようです。回数を重ねるごとに自信をつけていくのがわかります。また、本人の自主性が育ってきて嬉しい成長が感じられます。」とお母さん。大好きな京劇とともに、このまま健やかに成長してくれることを、お母さんも京劇協会のみなさんも願っていることでしょう。

 

大きな拍手で「三岔口」が終わり、次の舞台には竹口美鈴さんが立っています。「覇王別姫・剣舞」の上演です。「覇王別姫」は「四面楚歌」の語源ともなった故事に倣った有名な演目です。

 

劉邦の率いる漢軍に包囲された楚の覇王・項羽は、大勢はすでに去ったと覚悟を決めます。敗れた項羽の心情を慰めようと、虞姫が剣の舞を舞いながら唱います。

 

京劇の唱(うた)は女性の発声が特徴的です。言葉がわからないせいもあるのでしょうが、声というより中国に古くから伝わる雅な楽器のよう。優雅な剣の舞と相俟って、悠久を感じさせる特別な時間が流れていきました。

 

 

公演後に世田谷区立千歳台福祉園の施設長 大野一徳さんにお話を伺いました。

 

同施設では利用者の障害に応じた個別支援計画を作成し、ご家族と連携しながら利用者の支援を行っています。

 

大野さんによると、イベントは突然中止になることもあるので、利用者のみなさんには当日の朝にお知らせするのだそうです。

「みんな朝からとても楽しみに待っていたんですよ。」

 

「ここは区立の施設なので、世田谷区内からいろいろな団体が慰問に来てくださいます。京劇協会さんもずいぶん長くお世話になっています。個人差はありますが、京劇の鮮やかな衣装の色や大きな動き、楽しい音などに反応する方は多いです。今日も踊り出した子がいましたが、やはり五感に訴える力があるのでしょう。」

「それに集中力が持続しない利用者さんもいますので、京劇のそれほど長くない上演時間もちょうどいいんです。京劇はみんな大好きですよ。」

 

大野さんとお話している間に、利用者さんが次々に挨拶しに来てくれます。握手したり、ニコニコの顔を近づけてくれたり、とてもフレンドリー。上野さんも穏やかな笑顔で利用者さんと接していて、この施設の居心地の良さが伝わってきます。

「利用者さんの中には、車椅子の方や不随意の動きや大きな声が出てしまう人もいます。どうしても親御さんは劇場などに連れて行くのを躊躇いますよね。コロナ禍でその傾向はより強まり、社会の目も厳しくなったように思います。その点、京劇協会さんのように施設に来てくださる団体があると、生の音楽や演劇に触れることができるので、親御さんも喜んでくださっています。こういった福祉支援は、施設にとっても本当にありがたいのです。」

 

施設で催される京劇の上演が、利用者さんの笑顔のお手伝いと、そのご家族の助けになっていることがわかる、温かな言葉でした。

 

大野さんが施設内を案内してくださっているとき、帰ろうとしている野口くんと李くんを見かけました。メイクを落としたツルツルのあどけない顔。利用者や職員のみなさんに楽しんでもらえたことで、またひとつ自信を積み重ねた彼らの表情は、とても誇らしげに見えました。

 

 

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