舞台の上の室町時代、山本能楽堂へ訪問

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舞台の上の室町時代、山本能楽堂へ訪問

「能」と聞くと、「敷居が高い」「難しい」と感じる方が多いのではないでしょうか。

およそ650年前から続く能。継承されている演劇としては世界最古といわれる日本独自の舞台芸術で、世界無形遺産に登録されています。

室町時代に能を大成した観阿弥・世阿弥親子が足利義満の庇護を受け、豊臣秀吉が能に傾倒し、その流れは徳川家康にも引き継がれ、江戸時代には、武家社会での正式な式典で上演する「式楽」と定められ、「天下人の芸能」と言われるほど格式の高いものになりました。

そのためでしょうか、江戸時代に大衆の芸能としてうまれた歌舞伎とは異なり、能にはいまだに敷居の高さや難しさを感じる人が多いようです。

 

しかし、例えば能の人気の演目「羽衣」や「土蜘蛛」などのあらすじを、ゲーム感覚で、それもたった5分で知ることができたらどうでしょう。

能に対するイメージが変わると思いませんか?

また、子どもの頃から能の世界に触れていたら、大人になったときにそれほど抵抗なく能楽堂に足を運べるような気がしませんか?

 

能は台詞や動きが650年間変わっていません。私たちは能舞台の上に室町時代を観ることができるのです。

能の中には昔の日本人の美意識がそのまま残っていて、今の時代に通じる普遍的な要素もたくさんあります。「敷居が高いから」という理由だけで能を敬遠するのはもったいない。

能の中から現代の生活に活かすことができることがたくさんあるのではないだろうか。だからこそ650年も続いているのでは、、、。

 

そんな思いで、2月中旬、古典芸能の伝統を大切に守りながら、能のすそ野を広げるためさまざまな試みに取り組んでいる山本能楽堂を訪ねました。

 

伝統と革新と

大阪市中央区。約90年の歴史を湛えた国登録文化財の山本能楽堂はオフィス街のビルに囲まれて建っています。

訪れた日は月に一度の「能活」の日。能の演目やテーマを絞り、初心者にもわかりやすく説明してくれるワークショップです。

50ほど用意された椅子はほぼ満席。

この日の講座の演目は「熊坂」。亡霊となった盗賊の熊坂長範が旅の僧に回向を頼み、自分がどのように牛若(源義経)に討たれたか薙刀を持って舞い、無念を語る…という現実と夢が交差して話が進行する「夢幻能」です。

「熊坂は牛若に討たれたことで有名になったんです。盗賊としてはたいしたことなかった。」との説明に客席は笑いに包まれます。前の席にいた女性が連れの男性に話しかけていました。「今度は熊坂を観に来ぉへんとね。」

 

観世流の能楽師で、山本能楽堂の代表理事でもある山本章弘さんは、伝統を大切に守りながら、一方で数々の新たな試みに取り組んでいます。

この日の「能活」もその一つ。15年前に始めたこのワークショップ、今では遠方から足を運ぶ方も多いのだそうです。そういえば開演前の行列にはトランクを引いている方が何人もいました。

山本章弘さんの奥さまで、山本能楽堂の事務局長 山本佳誌枝さんにお話を伺いました。

能は理解するものではなく感じるもの、と夫はよく言っています。大鼓の音はアルファ波を出しているらしいので眠くなるんです。

寝ちゃっていいんですよ。

まずは能の空気に触れていただくことが大切。想像力を働かせて楽しんでみてください。

などなど、誰もが能に対して感じている(であろう)「格調高い伝統芸能なんだから、背筋を伸ばして姿勢良く最後まできちんと観なきゃいけない(ような気がする)。

寝るなんてとんでもない(に違いない)!」というイメージを払拭してくれます。

 

佳誌枝さんはスマホを手に取り、アプリを起動しました。なんと、アニメで演目のあらすじが見られます。

RPGのように登場人物のセリフを▼で進めていくのも楽しい。

1時間の能(のあらすじ)を5分で知っていただけるんです。

こんな風に簡単にあらすじを押さえていくだけでも、能を観るハードルはぐんと下がるように感じられます。もっと知りたい人には、演目の詳細や原文、能面や装束などの説明などもあります。しかも無料。

このアプリはブルガリア人の留学生 ペトコ・スラボフさんが作りました。ペトコさんは山本章弘さんに弟子入りし、山本能楽堂の海外公演のきっかけとなった方。

実は母国でコンピューター工学を学ばれていたのだそうです。

ペトコさんのことは機会を改めてご紹介するとして、能への愛が詰まったアプリをぜひ一度ご覧になってみてください。

Yamamoto Noh(iPhone,iPad)
We Noh(Android)

 

0(ゼロ)を1(イチ)に

山本能楽堂では、子どものための活動も数多く行っています。能をテーマにした造形遊びや新作能の舞台に一般公募の子供たちが出演するなど、幼少期の楽しい思い出が未来の鑑賞者につながると佳誌枝さんは言います。

文化庁による全国の学校巡回事業や大阪府下の芸術家派遣事業にも携わっており、これまでのべ8万人ほどの子どもたちに能の魅力と楽しさを伝えてきました。

また、国内・海外からの能体験講座や、ストリートライブ能、新作能「水の輪」によるSDGsの推進、9年前から続けている海外公演など、新しい試みに次々と取り組んでいます。

現代社会において能を伝えていくためには、例えば、子どもの情操教育や国際交流、環境問題への取り組みにつながるなど、何か世の中の役に立つ要素が必要なのではないかと考えています。

能という日本を代表する舞台芸術の魅力を伝えるのと同時に、何か社会とつながったり、社会に貢献させて頂けたりすることで、まちとも人ともつながることができる。そうすることで、0が1になり、能の公演が、単なる一過性のイベントではなく、能が社会の中で意味を持ち、継承されていくことができるのではないかと期待しています。

と語る佳誌枝さんの言葉に力がこもります。

夫と二人三脚で、能という伝統文化の伝承と発展を担う覚悟が垣間見えました。

 

2019年の海外公演は9月25日のブルガリアのスタラ・ザゴラ市からはじまり、日本とブルガリアの友好110周年事業として、プロブディフ市、ソフィア市で開催され、日本と北マケドニアの外交関係樹立25周年記念事業として、北マケドニアのスコピエ市、アルバニアのティラナ市など約3週間にわたって上演されました。

全ての公演が、ほぼ全ての現地メディアから取材を受け、特にスコピエ市とティラナ市では初めての能の上演ということで大きな反響をよび、大成功をおさめることができました。

プロブディフ公演で上演した新作能は、バルカン半島では知らない人がいないと言われているギリシャ神話「オルフェウス」を題材に、ブルガリアと共同制作し、上演しました。新作能「オルフェウス」では、ブルガリアの恵まれない子どもたち20名が動物や花、鳥、虫、魚の役になって能の舞台に出演しました。

公演の約1か月前に、現地の学級に出向き、子どもたちに能の魅力を伝えながら、能の型(振付)やセリフを一緒に考えたり、衣装を手づくりするワークショップを行ったりして、交流を深めたそうです。彼らの柔らかな感性は「能」を簡単に受け入れたことでしょう。子どもたちにとってこの公演は忘れられない経験になったに違いありません。

 

今回の海外公演の様子は、日本経済新聞社の論説委員とカメラマンが約1週間同行取材し、2019年11月7日付の日経新聞全国版で3ページにもわたるカラーの特集記事が掲載されました。

「能」を世界中へ発信することが、逆輸入のような形で日本人の「能」への関心を高めることにもつながっていく。山本能楽堂の取り組みに、これからも期待をもって注目していきたいと思います。

 

~ご支援のお願い~

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