2月の中旬、香川県さぬき市へ『NPO法人クリエイト』が運営をするフリースクール「クリエイトインターナショナルクリスチャンスクール」(以下クリエイト)を尋ねました。
クリエイトはJR高徳線の「鶴羽駅」から徒歩5分ほどの場所にあります。高松駅から列車で約1時間、山や海が近く田畑にも恵まれた自然豊かな町で、近くには海水浴場もあります。道を間違えて少し遠回りしながら到着すると、子ども達が教室から出てきて迎えてくれました。
クリエイトは2006年に教会に設立された小中一貫のフリースクールです。クリスチャンの子ども達の他、さまざまな理由で学校に通うことが難しい小中学生の子どもたちを受け入れており、現在は5人が通っています。
子ども達は、普段はクリエイトで学校と同じ内容の勉強をしながら、在籍している公立学校に月に1~2回登校しています。運動会や遠足などの行事もあります。
「生き方で勝負して欲しい」
クリエイトには、さまざまな境遇の子ども達がやってきますが、学校に行けなくなってやってきた子たちの多くは、自分に自信を持てずにいます。そんな子ども達のためにクリエイトでは、海岸の清掃活動や老人ホームへの訪問、刑務所での慰問合唱など、さまざまな経験や出会いの機会を積極的につくっています。更に2年に1度は海外のスラム街で現地のNPOと協力してボランティア活動も行っています。
これらの機会では、子ども達は一所懸命に練習をした歌やダンスを披露したり、みんなで考えたお土産を手渡したりしながら、相手が笑顔になってくれる喜びを実感します。そして、自分が誰かに喜んでもらえる存在であることに気付き、だんだんと自分に自信を持てるようになります。また同時に、さまざまな境遇の人がいることを知り「自分さえ良ければいい」ではなく、「誰かに貢献できる喜び」を自然と選べるようになります。
そんな話の中で理事長の多田美鈴先生が言われた「生き方で勝負して欲しい」という一言がとても印象に残りました。「いう事だけが立派な人にはなって欲しくない。先生や先輩の良い所を受け継いで、言葉と行動が伴った信頼される大人になって欲しい、社会に貢献できるようになって欲しい。」そんな想いが、クリエイトの教育には貫かれています。
行き場を必要とする不登校の子ども達のために
現在クリエイトに通う子どもは5人。うち2人はこの春卒業して高校に進学する予定です。以前は就学前の子どもも含めて15人ほどの生徒がおり、授業料で運営費用の大半をまかなえていたのですが、現在は生徒の減少で経営的に厳しい状況にあります。
先生たちも、担当する授業の時間帯を調整してパートの仕事に出るなどして、お互いに支えあいながらこの仕事を続けています。
多田美鈴先生によると、経営の厳しさからクリエイトをたたもうと考えた時期もあったそうです。しかし、今も続けている理由として「ここを必要とする子どもが一人でもいた時に、行き場所がないなんてことはあってはならないから」と教えてくれました。そして同時に、「ここなら子ども達を立ち直らせることが出来るという自負がある」と、とても力のこもった声で話してくれました。
これまで多様な子ども達を受け入れてきた経験と、卒業した子ども達が社会で活躍している姿が、その裏付けとなっています。
クリエイトが抱える課題
そんなクリエイトの最大の課題は、どうしたら学ぶ場所を探している不登校の子ども達とそのご家族にクリエイトのことを知ってもらえるかです。現在は、見学に来る子供たちの多くが、近隣自治体の福祉部門からの紹介で来ています。また、放課後に行っている英語教室や、地域のイベントへの参加などを通してクリエイトを知った方からの紹介で見学に来る子もいます。
本来であればこの様に口コミで広がることが一番なのですが、不登校に対する恥の意識は根強く容易ではありません。現在は、市報などの広報誌や新聞の折り込みチラシなどの活用を検討しているということでした。
また、教育委員会や学校へ事業の説明に行っていますが、学校では教育委員会などに併設されている『適応指導教室』を紹介することになっています。また、「子どもを学校に返す気はあるんですか?」と常に言われるそうです。
不登校でも出来るなら学校に行きたいと思っている子どもはたくさんいます。そんな子ども達が学校に行けるように、また一方で学校に行くことが難しい子ども達が学びの機会を失わないように、子ども本位の協力関係が進むことを願ってやみません。
授業を見学させてもらいました
授業は小学生と中学生の2つの教室に分かれておこなわれます。小学生の教室は机が5つほどの小さな教室ですが、時間割や世界地図、子ども達が書いた習字などが壁やホワイトボードに所狭しと貼られています。
学年はバラバラですが、先生は子どもと一緒に考えながら問題を解いたり、じっくり考えさせたりと、一人ひとりに合わせて勉強を教えています。教科書の内容を教え込むというよりは、自分で考えることを大切にしている印象を受けました。
隣の教室では、高校受験を控えた2人の生徒が「受験まであと〇日」と書かれたホワイトボードを前に、問題集に取り組んでいます。私のイメージするような「The受験生」という悲壮感はなく、先生に明るく質問をしながら勉強をしています。
先生はヒントを伝えながら集中して考えるように促しています。この様子なら受験当日も緊張せずに実力を発揮できるのではないかと、勝手に安心してしまいました。
後日クリエイトさんから、こんな嬉しいニュースが届きました。
「受験生二人が合格しました!来月から二人とも地域の公立高校に入学します。内申点の無い中厳しい受験でしたが、がんばりが報われて嬉しいです。」
クリエイトに訪問させていただいて
今回の訪問では、授業の見学や打合せだけでなく、保護者の方が作ってくれた給食をみんなと一緒に食べたり、タンバリンダンスを見せてもらったりしました。
子ども達を見ていて感じたのは、みんな自然体で過ごしているなという事。笑顔の時ばかりではないと思いますが、友達や先生とのあいだに信頼関係があるからこそ自然体でいられると思います。私自身も、みんなが歓迎してくれていると感じられ、とても居心地の良い時間を過ごさせていただきました。
最後は、授業を終えてバスケットボールをするという子ども達と先生に見送られながら、帰路につきました。
実は今回の訪問中、見学の子がクリエイトにきていました。先生と色々話をしたあとに、子ども達と挨拶をして帰っていきました。とても人見知りをしていましたが、翌日からこちらに通うことになりました。一人ひとりの子どもに寄り添うクリエイトの活動が広く伝わり、継続していけることが、周辺の子ども達にとってもとても大切なことだと実感される一コマでした。
温かく迎えてくれたクリエイトの皆様、最後まで読んでいただいた読者の皆様ありがとうございます。
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