つなぐ~日本の伝統芸能「能」を世界へ~

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つなぐ~日本の伝統芸能「能」を世界へ~

2018年5月29日、つなぐ~日本の伝統芸能「能」を世界へ~セミナー、体験会を開催いたしました。今回は、助成先団体の公益財団法人山本能楽堂代表理事 山本章弘さんを迎えて伝統芸能を守りつつ、その信念と情熱を世界へ発信する活動を知る『能(のう)セミナー』と能の謡(うたい)を一緒にうたったり、能面の表情を見比べ・能衣装を羽織る『能(のう)体験会』を行いました。

第3回を迎えて初めて体験会を行うことができ肌でも体感できました。

今回の資料は『能』ということで和をテーマに、お品書きをイメージして作成しました。

能(のう)セミナー

海外公演のきっかけ

山本能楽堂は、能の魅力を世界に発信する取組みとして積極的に、海外公演も行っています。そのきかっけは、約10年前に留学生で能の研究をしていたブルガリア出身のスラボフ・ぺトコさんを迎え入れたことでした。ペトコさんを通して、ブルガリアをはじめとする東ヨーロッパの人々に親日家が多いにも関わらず、「本物の日本文化」がほとんど上演されることがなく、現地では「本物の日本文化」を渇望していることを知りました。思い返せばそれまでに、西欧の大都市、例えばパリやミラノ、ワシントンやシカゴで能を演じたことはありましたが、東ヨーロッパには一度も行ったことがありませんでした。そんなに東ヨーロッパの人々に日本が愛されているなら、自分たちで東ヨーロッパの人たちに能の公演を届けようと始めたのが、2011年のブルガリアで30年ぶり2度目の能の公演でした。以来、少しづつ公演範囲を広め、毎年ブルガリアやルーマニア、スロバキアなどで能の公演を開催し、現地との国際相互理解を深めてきました。2014年のブルガリア公演では現地の有名な女優さんら10人のブルガリア俳優が能の稽古を重ね、「紅葉狩」の能に出演し、大きな話題を呼びましたが、その後もブルガリアの俳優さんたちが大阪を訪れ、能のさらなる稽古を重ねるなど、今でも親交が続いています。

そして、2016年には、ヨーロッパで最大の演劇祭となったルーマニアのシビウ国際演劇祭に能として初めて招聘を受け、大喝采を浴びました。そして、今年は3度目の出演となりますが、3年連続でシビウ国際演劇祭の招聘を受け、10日間の開催期間中に連続して4公演上演するのはめったにないことで、現地の期待と関心の高さをうかがい知ることができます。

様々な能の魅力を世界の人に紹介する

3年前に、シビウ国際演劇祭で初めて能を上演した直後、総監督のコンスタンティン・キリアック氏から「日本の伝統芸能は世界で最も崇高な舞台芸術である」と最高の賛辞をいただきました。翌年の2度目の公演では、能の公演、ストリートライブでの能公演、ワークショップそしてシンポジウムへの参加など、能を様々な角度から紹介することができました。3年目の今回は、キリアック氏からの要望で、チスナディオラ砦要塞教会で戦死した兵士たちの魂の鎮魂のために、能「敦盛(あつもり)」を2日間上演します。また、演劇祭の中心となるラドゥスタンカ劇場のすぐ横に新設された野外劇場で、日本の薪能の形式で能「土蜘蛛」を2日間上演します。他にもワークショップや演劇のマーケットにも参加する予定です。「土蜘蛛」の二回目の公演は10日間の演劇祭の最終日の夜9時半から。「土蜘蛛」が終わってしばらくすると花火が打ちあがり、演劇祭はクライマックスを迎えます。

 

 

能(のう)体験会

能の歴史

能は、室町時代に観阿弥・世阿弥親子によって大成され、足利義満の目にとまり、ブレイクしました。また、大阪城を築城した豊臣秀吉が能に傾倒し、自ら能を舞ったことから面や装束が秀吉好みに豪壮になったと言われています。江戸時代になると武家の式楽となり、儀式等で使う芸能式楽として定着しました。そして、明治維新によって武家社会が崩壊すると一時衰退の危機をむかえますが、華族や貴族から保護を受け、財閥に受け継がれると、現代のゴルフ人気以上の黄金期をむかえました。2008年ユネスコ無形文化遺産の第一号として登録されました。

能の謡(うたい)体験

参加者の皆様に、「羽衣(はごろも)」と「高砂(たかさご)」の謡(うたい)をご体験いただきました。能の謡(うたい)には絶対音や音符がありません。謡は楽譜のように横書きではなく縦書きでお経のような読み方をします。今回はオリジナルのわかりやすいテキストを使用してご体験いただきました。女性が多い時は少し高めでうたい、男性が多い場合は低めでうたいます。関西風のゆったりとした「羽衣」、そして、江戸前のリズミカルな「高砂」の2種類の謡をお楽しみいただきました。ペトコさんと一緒に開発した無料アプリ「スーパーウタイ」で誰でも、世界中のどこでも謡を学ぶ事ができることをしり驚きました。お腹から大きな声を出しで謡をうたうのは大変気持ちがいい、今までになかった初めての体験でした。

 

能面の表情は本当に無表情なのか。

能の謡(うたい)の後は実際に使っている能面をみせていただきました。能面は非常に繊細で環境の変化に敏感な道具です。そのため保管する時は一つ一つ専用の袋に入れて保管されています。

今回のセミナーでは、10代、20代、30代の女性とイケメン男性の能面を見させていただきました。女性の能面はお歯黒をつけ、眉毛を剃り、眉墨をしています。10代と20代の能面は、単体で見ると違いが分かりにくかったですが、二つを比べると違いがよく分かりました。10代の能面(左手の能面)は少しふっくらしていて、20代の能面(右手の能面)は少しほっそりしています。能面の髪の毛は心の状態を表しますが、10代の能面は純粋なため、髪に乱れはありませんが、20代になると恋を知り、心が乱れてくることから髪も少し乱れています。30代の能面は母の顔です。当時は家事がつらい肉体労働であったため、くたびれた顔となっています。また、こどもを亡くした母の顔でもあり苦悩も表しています。男性の能面は、貴族の男性(平家)のため、眉を剃って眉墨をしています。当時のイケメンで文武両道に長けている顔です。

「能面のように無表情である」などと小説などで書かれますが、実際の能面は大変表情豊かです。真正面からみると無表情に見えることがありますが、少し下に傾けると悲しげな表情となります、そのような時は、謡も少し低めにうたい悲しさを表現します。逆に能面を少し上に傾けるとう明るい表情となり謡も少し高めにうたい、希望や喜びを表します。

 

能の装束

今回のセミナーでは、参加者の方に能で使われる衣装も着てもらいました。今回お持ちいただいた能装束は「唐織(からおり)」といいい、能装束の中でも大変華やかで豪華なものです京都の西陣織で、着物の帯と同じような技法で織られます。参加者の方は、非常に大きく、また重いことに驚かれていました。10代、20代の女性の能面には、赤の入った華やかで明るい能装束をつかいます。また30代の女性の能面には、赤色のはいらない、少し暗めの衣装がぴったりあいました。

その他にも扇子やかつらも見せていただきました。

能を通してのご質問

Q:能楽師として長く演じられてきてご自身が一番魅力だと思われていることは。

A:見てる方の感性によって感じ方が違うのが能の魅力だと思います。また、初めてご覧になった時と、能の知識が深まられてから、あるいは年齢を重ねられてからではまた違った感じ方をして頂く事ができます。その時々の一期一会の魅力があります。

Q:一番大切にしていることは

A:道具を大切に守ってこられた先人たちへの感謝の気持ちを大切にしています。古典を行う上で一番大切にしなければならないことです。また、能の舞台は大勢で一つの舞台を作り上げますので、チームワークを大切にしています。

Q:能を見ることにより精神的にどのような影響がありますか。

A:一言でいうと、心の背筋を伸ばしていただくことができます。そして、心の背筋が伸びれば、日々の生活とのギャップが心地よくなると思います。

 

ご参加いただきありがとうございました。

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セミナー・体験会終了後、ぜひもう一度行ってくださいとのお声をたくさんいただきました。

アンケートにもご協力いただき、ご意見やご感想では「能の世界が広がり、周囲にももっと能の良さを伝えたいです。」「今回のお話しを聞いて今まで以上に能が楽しめるかと思いました。」

「寄付金が良い使われ方をされていていいことだと思いました。」など

これからもまだまだ知られていない世界や社会問題をセミナーや体験会を通じて多くの方に知っていただけれるよう取り組んでいきます。