
2025年2月、多くの子どもたちが受験シーズンを迎えて静かに机に向かっている時期。
それは一般社団法人神戸みらい学習室で勉強に励む、経済的に困難を抱える家庭の中学生たちにとっても同じです。
1年の中で一番子どもたちの勉強や講師陣の指導に熱が入るこの時期に、お邪魔にならないように細心の注意を払って神戸みらい学習室の活動の様子を見学させていただきました。
神戸みらい学習室とは
一般社団法人神戸みらい学習室は、神戸市の2つの拠点で経済的に困難を抱える家庭の中学生に学習支援を行っている団体です。

一般社団法人神戸みらい学習室の理事長 佐々木 宏昌さん
神戸市や兵庫県の職員の有志が中心となって団体を運営しているのが大きな特徴で、理事長の佐々木さんも神戸市に職員として勤められています。
佐々木さんは、市の職員として勤められる中で貧困が子どもたちに大きな影響を与える様子を何度も目の当たりにされ、また行政の枠組みの中ではその状況を変えることに限界があったため、同じ思いを持った周囲の方と一緒にこの活動を始められました。
準備にも全力
神戸みらい学習室の学習支援は毎週日曜日に行われます。
個別指導の形を取っており、今回伺った拠点には約45名の子どもたちが通っているため、講師も同程度の人数が参加しています。
この際に重要となるのが生徒と講師の組み合わせ。生徒の学びたい科目と講師の得意科目、2人の相性など、組み合わせによって同じ勉強時間でもその質が大きく左右されます。
もともとは佐々木さんが生徒と講師の情報を勘案して各ペアを組まれていましたが、より効果的な組み方を、他のスタッフの方でもできるように、2024年に新たにネットワーク上で専用のシステムを開発されました。
実際にそのシステムは他のスタッフの方の手でも運用されるようになり、生徒と講師の組み合わせがより良いものとなった結果、生徒の成績もそれまで以上に伸びているといいます。
また、生徒と講師の組み合わせは固定せず、生徒からは対応してくれた講師が自分に合っていたかどうか毎回終了後にフィードバックをもらっているとのことで、回数を重ねるごとにさらに組み合わせの精度が上がっているようです。
組み合わせが決まった後も大切な準備が残っています。
それは、講師による担当生徒の状況の把握。団体内には各生徒についての情報が蓄積されており、その生徒が今どのような状況で、どんな進路を希望しているかなどが事細かに記録されています。講師の方々は、当日、生徒が来る前に会場を訪れ、その日に担当する生徒の情報を毎回確認しています。
生徒の中には発達障がいの子や勉強がとても苦手な子もいますが、それもこの際に担当講師の方が確認しているため、適切に配慮が行き届き、多くの子が無理なく通い続けることができています。
生徒とのあたたかい関わり
会場に生徒がやってくると、受付を担当されているスタッフの方を中心に、一気に家族のような空気が広がりました。
3年生の子とは、「面接の練習どう?順調?」「順調っす!!!」「あんまり調子乗ったらあかんよ~~!」と面接の緊張も一気に抜けそうなやりとりがあり、帰る子には、「お疲れさま。そこのお菓子、勉強頑張ったご褒美にってもらったから一つ持ってき!」となんだか親戚の大人風。
横で聞いているだけでも心が温かくなるようなやり取りが、受付の前を通る子全員に対して繰り広げられます。
佐々木さんからは、生徒には経済的事情だけでなく、母子家庭や多子家庭などで、家庭環境の面でも他の子と異なる子が多いとお聞きしていました。そうした背景を知っていると、この何気ないやり取りが一層かけがえのないものであるように思えてきます。
神戸みらい学習室には本当に様々な事情・特性を持った子がやってきます。
スタッフの方によると、最初は俯いて目も合わせてくれなかったような子もいたとのことですが、粘り強く挨拶の声掛けを続けているうちにやがて向こうから元気に挨拶してくれるようになったとのこと。
もちろん、学習支援に一番重きを置かれた活動ではありますが、多感な時期にこのように温かい大人たちに周囲にいてもらえた経験は、その子の将来にとってきっととても大きな財産になるはずです。
講師の振り返り時間
生徒たちが勉強を終えて帰る時間になった後も、講師陣には大切な時間が残っています。
それは、今回の学習支援の振り返り。講師全員で集まって、指導の状況や生徒の様子について気付いたことを全体で共有します。
今回は訪れたのが2月ということもあり、面接について話題に上がりました。
「『御校』と『貴校』、それぞれ話し言葉と書き言葉という違いがありますが、それを教わる機会もなかなかないため、間違えてしまう生徒が多くいます。細かな点ですが、彼らが本番でしっかりと力を発揮できるように、そういった点も注意して教えていきましょう」
私たちが大人になるにつれて常識として刷り込まれてきたことも、中学生にとっては全く未知のことのはず。
いわゆる勉強とは少し異なることも、人生の先輩としてしっかりと教えていきたいという講師陣の熱い思いが垣間見える一幕でした。
生徒に寄り添う関わり方と子どもたちの未来
神戸みらい学習室は、学校の1クラス以上の生徒が1つの拠点に集まる、比較的規模の大きな学習支援を展開しています。
その規模からは画一的な支援内容が想像されますが、実際は真逆で、小さな団体と同じかそれ以上に生徒に寄り添った支援が行われており、それが今回見学させていただいてよくわかりました。
いわゆる勉強以外の面でも、スタッフの方との温かな関わりがあるほか、講師が学びの意義をプレゼンする「夢ゼミ」という企画も定期的に行われており、家庭や学校だけでは得難い経験もここですることができます。
こうした支援のきめ細やかさに注目すると、これらが無料であることに改めて驚かされます。
様々な支援は、平日に役所で働かれている職員の方や地域の大学生・会社員の方などが、子どもたちのために日曜日にボランティアとして参加してくださっているからこそ実施できています。
そのため、学習支援そのものと同時に、このように心温かな大人に寄り添ってもらえる経験自体がかけがえのないものであり、生徒が心豊かに成長する大きな助けとなるはずです。
この活動の目標について、佐々木さんは以下のように語られています。
「地域に活力のある新たな時代に向け、若くして苦労した子どもこそが、実は社会的意義のある新たな価値を創造し、社会に大きな変化をもたらす存在であることを証明してほしい」
周囲と違う状況の中で育った子どもたちが、その子たちならではの視点を持ってのびのびと成長していける環境が神戸みらい学習塾にはあります。
地域の大人に支えられた子どもたちが、やがて地域を支えられるくらい立派に育ってくれるような未来を夢見て、私も改めてこの活動を応援していきたいと思うのでした。
神戸みらい学習室は、貧困家庭の子の勉強を支えるために現在寄付を受付中です。
皆様の温かいご支援を何卒宜しくお願い致します。