馬たちが「いのち」をつなぎ、「いのち」を伝えるアヴニールファーム

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馬たちが「いのち」をつなぎ、「いのち」を伝えるアヴニールファーム

 

NPO法人アヴニールファームは大阪府和泉市で養老牧場を運営しています。養老牧場とは、競走馬や乗馬を引退した馬たちが余生を送るための牧場です。

都美さんとズルフィカール

馬が大好きで、過去に辛い時期を、馬に乗り越える力をもらった小田上 都美さん。何か馬に対して恩返しが出来ないかと考えている中で、寿命を全う出来ない多くの馬たちがいる事を知り、そんな馬を少しでも迎え入れたいとの思いから、2020年に小さな養老牧場を開きました。

夫の彰さんとともに、大阪府の和泉市の山の中の荒れた耕作放棄地を、木の根を一つ一つ取り除き、均すことから始めました。

馬が暮らす厩舎も、友人の手を借りながら、一棟ずつ自分たちで手作りしました。

馬たちに何かあれば、夜でもすぐに駆け付けられるよう、牧場のすぐ近くの古民家に移住しました。

牧場を一緒に切り盛りするなかで、デスクワークで一日に2000歩しか歩かなかった生活から、1万歩以上を歩き回る日々に生活が一変した彰さん。最初の夏には、体重が20kg減りました。

アヴニールファームが5頭の馬とともにオープンしたのはちょうどコロナ禍の真っ最中。多くの方々に馬の魅力を伝え、もっと馬を身近に感じてもらいたい。たくさんの人に馬を好きになってもらいたい。そんな想いとは裏腹に、「自粛」の中で、誰も来ない日々が続きました。歯がゆさと焦燥感の中で、毎日馬と向き合い続けました。

あれから4年、現在では、預かっている馬を含めて16頭の馬がアヴニールファームで余生を過ごしています。そのうちの12頭は、早く走ることだけに命を懸けてきた、元競走馬のサラブレッドです。

関わった人の強い思いによって命をつないだ馬たちが、穏やかな日々を過ごしています。

 

手作りの牧場

残暑厳しい2024年9月のある日、関西国際空港に近い、大阪府和泉市の和泉中央駅に降り立ちました。

大阪の中心部まで電車で40分との立地から、ベッドタウンとして近年開発が進む和泉中央エリア。モダンな駅舎を出ると、駅前には大型商業施設やマンションが立ち並んでいました。まだ新しい瀟洒な家々が並ぶ住宅街を抜けると、日本の原風景ともいうような景色が現れます。

そして、車は山の中へ。「この辺はサルやイノシシが出るんですよ」と言う地元の人の言葉どおり、昼間でも暗く感じられるほど深い林の中を数分走ると、ビニールハウスの並ぶ農業団地に入ります。その中の一画にアヴニールファームはあります。放牧地の砂地と、馬の暮らす厩舎の赤い屋根が見えてきます。

訪問した日はよく晴れた残暑厳しい昼下がり。都美さんは、強い日差しの中で、放牧地の柵を修理している最中でした。

穏やかな表情のハヤテ

馬たちは、ちょうどエサの時間でした。馬たちは厩舎の中の、馬房に一頭ずつ入っています。寒さには強いけれど暑さには弱い馬たちのために、大型の扇風機が何台も馬房に向かって風を送っています。

私たちが馬房の前を通ると、時折馬がひょっこりと顔をのぞかせてくれます。中には歯や消化に問題があり、ペースト状になったエサを食べている馬もいます。

高齢の馬も多いはずなのですが、どの馬もつやつやとしており、愛情をもって世話をされている様子がうかがえます。

 

高齢でも、病気でも

そのうちの一頭に、目を覆う大きなブリンカーを付けた馬がいました。彰さんは、「この子は眼球が無いから、来る人がびっくりするといけないからブリンカーをつけているんだ」と優しい目で馬を見つめます。

眼の保護のためにブリンカーをつけるスモモ

アヴニールファームは、開業以来、高齢や病気、けがなどで他の牧場では預かってもらえないような馬も積極的に受け入れてきました。看取った馬も1頭や2頭ではありません。

「もともと知識が無いから、業界の常識も知らない。だから知っている人に教えてもらい、助けてもらった」そう語る彰さん。

馬に何かあった時のために、大学の獣医学部の先生に教えを請い、オンライン診療を取り入れました。馬への注射の方法を習い、獣医の監督の下で応急的な処置ができるようにもなりました。

受け入れる牧場が無ければ、馬は生きていけません。高齢や病気の馬にとって、それでも受け入れてくれるアヴニールファームのような養老牧場は、寿命を全うすることのできる最後の居場所なのです。

 

第二の馬生のその先に

馬房の一つに肋骨がはっきりわかるほど痩せた馬がいました。競走馬を引退し、乗馬クラブで乗馬として第二の馬生を歩んだ馬でした。

第二の馬生である乗馬は、人を乗せて走れる馬であるということが前提となります。そのため、乗馬として走れなくなると、乗馬クラブで飼育し続けることができなくなってしまいます。この馬は、乗馬クラブで走れなくなった際に、幸いにも今のオーナーに引き取られ、アヴニールファームに預けられました。

「この子はまだ、人間は怖いと思っているんだ」という彰さん。3メートルくらい離れたところにいると、馬房から顔を出してこちらをうかがっていましたが、彰さんが1メートルまで近づくと、前に向けていていた耳をピタッと後ろに倒し、目元を険しくして警戒心をあらわにします。

彰さんにじゃれつくレッドライヤ

こういう馬には、半年ほどかけてじっくり「人は怖くない」ということを分かってもらい、信頼関係を築くのだそうです。

ガリガリに痩せるほどに使役され、人間不信に陥った馬。そんな馬も、小田上さんご夫妻をはじめ、アヴニールファームのスタッフやボランティアの方々の愛情あふれるお世話を受けて、半年後には他の馬房にいる馬のように、穏やかな瞳で余生を楽しむことができるようになることでしょう。

 

馬の好物はやっぱりニンジン

アヴニールファームは、子どもたちや一般の人が、馬とのふれあいや乗馬などを体験できる場でもあります。様々な体験メニューのなかでも一番手軽で人気なのが「えさやり」です。馬が食べやすい大きさに切ったニンジンをあげることができます。

ニンジンを持って馬房に近づくと、最初に厩舎を一巡りしたときと違い、目一杯首を伸ばし、馬の方から顔をぐいぐいと近づけてきます。差し出されたニンジンを「返さないよ!」とばかりに引っ張る馬もいれば、指先まで口に入れるほどに口を寄せてくる馬もいます。目が見えない馬も、口元まで運んであげると上手に食べてくれます。歯が悪い馬は、ゆっくり時間をかけてかみ砕きます。

奥の馬房からは、「ズルい!私も欲しい!」とアピールする音も聞こえてきます。

最初は体重500kgの大きな体に圧倒されましたが、ニンジンを介して馬とコミュニケーションを取れたような気がするひと時でした。

ニンジンを食べ終わった馬は、「美味しかった!」と言っているかのように、表情も優しくなったように感じられました。

 

地域の子どもたちのために

アヴニールファームは開業当初の、運営が苦しい時期から、馬とふれあえるイベントを行うなど、地域の子どもたちに向けて開いていました。

現在では、引退競争馬の保護とともに、一人親世帯の子どもに無料乗馬レッスンを行ったり、障がいを持った子どもたちに馬とのふれあいの機会を提供したりと、馬を通じた社会への貢献を進めています。

通常、乗馬クラブは、クラブの会員以外は立ち入ることができません。一般の人が馬を間近に見る機会はとても限定的です。「それは寂しいな」と感じた小田上さん夫妻は、アヴニールファームを、馬の安全を確保しつつも、多くの人が馬とふれあうことのできる、地域や人々に開かれた牧場にしようと考えたそうです。特に子どもたちにはできるだけ馬とふれあう機会を設けたい、と様々なイベントを企画してきました。

子どもたちのお世話をうけるスモモとデール

2024年度の助成対象事業となっている「馬とのふれあい体験で障害をもつ子どもたちに癒しと成長を!」では、放課後等デイサービスに通う心身に障がいを持つ子どもたちが継続的に馬の世話を体験する機会を創っています。

サラブレッドの体重はおよそ500kg、ポニーでも200kgほどあります。子どもたちにとって、自分よりはるかに大きな馬に接するのは、ちょっとした冒険です。「噛まれないかな」、「急に動かないかな」と、緊張しながら馬に触れます。そんな緊張感を乗り越えて、大きな馬がブラッシングする間は動かずじっとしてくれたり、穏やかな表情を見せてくれたりする体験は、馬のお世話ができた、馬と分かりあえた、というかけがえのない成功体験になります。

また、馬に触れ、体温を感じ、脈動を感じる体験を通じて、子どもたちは「いのち」とは何かを、五感を通して感じてくれることでしょう。

アヴニールファームを運営する小田上さんご夫妻が馬にかける愛情、それによって引き出された馬の穏やかさが、子どもたちに「いのち」の尊さとして伝わる。そんな慈しみの連鎖が、アヴニールファームから広がっています。

 

 

ご支援のお願い

オープン当初から地域の子どもたちに馬とのふれあいの機会を提供してきたアヴニールファーム。

障がいを持っている子どもの親御さんからは「参加したいけれど他の参加者や周囲に迷惑をかけてしまうことが心配」という声が多く聞かれていました。

そこで、障がいを持つ子が気兼ねせずに馬とふれあえるよう、放課後等デイサービスの職員の方からの助言を受けながら、安全に馬とふれあえるプログラムを実施しています。

馬のお世話や馬とのふれあいは、子どもたちの癒しとなり、「いのち」の尊さを実感する機会となります。

どうぞ、プログラムの実施にご支援をお願いいたします。

馬とのふれあい体験で障害をもつ子どもたちに癒しと成長を!