「医療的ケア児」をご存知ですか?
お金をまわそう基金の助成先の中にも「医療的ケア児」に関する社会課題に取り組んでいる団体があるので「言葉を知っている」という方も多いと思います。
では、「医療的ケア児」とはどういった子どもたちなのでしょうか。
医療的ケア児とは
「医療的ケア児」は、生きていくうえで日常的に医療的ケアを必要とする子どものことです。
現在、全国に約2万人いるとされており、2010年の約1万人から、この10年ほどの間に約2倍に急増しています。
厚生労働省「医療的ケア児について」をもとに当財団作成
医療的ケア児の増加の背景の一つには、医療の進歩があります。それまでだったら助けることのできなかった新生児を、新生児医療の進歩により救うことができるようになりました。また、「新生児集中治療管理室」NICUも増加し、新生児を救うことのできる環境が整備されてきました。
NICUは増加しましたが、長期に入院する子どもが増加し満床となり、緊急入院が必要な新生児を受け入れられない状況となってしまいました。そこで、NICUに長期入院している子どもを退院させる動きが促進されました。
これらの結果、医療的ケアを受けながら自宅で生活する「医療的ケア児」が増加することとなったのです。
医療的ケアとは
では、医療的ケア児たちが日常受ける医療的ケアにはどのようなものがあるのでしょうか。
多くの子どもが必要としている医療的ケアが、呼吸に関するケアと栄養摂取に関するケアです。
呼吸に関するケアとして、最も一般的なのが、気道を維持するために鼻や口、のど、気管にたまった痰やつばを取り除く「吸引」です。吸引は痰がでてきたらその都度行います。体調が悪い時には、1時間に何十回も、一日中行う必要がある場合もあります。
呼吸を助けるために、鼻腔に通したチューブから酸素を送ることもあります。気道を確保するために喉に穴をあける気管切開をすることもあります。気管切開をすると、喉の穴から呼吸できるようになります。気管切開をしている場合は、喉の穴に水が入らないように生活全般において気を付けなければなりません。
さらに状態が重い場合には、呼吸を介助するために人工呼吸器を着けることがあります。この場合は、呼吸がちゃんと行えているか、酸素は足りているか、管理する必要があります。
栄養摂取に関するケアとして、口から食事をすることが難しい場合は、チューブを通して直接胃や腸に栄養剤やペースト食などの流動食を入れ栄養を摂取する経管栄養があります。
栄養の摂取だけでなく、水を口から飲むことが難しい場合の水分補給や内服薬の服用にも使われます。
鼻からチューブを入れる経鼻胃管栄養・経鼻腸管栄養、胃や腸に小さな穴を開けて栄養カテーテルを入れるする胃ろう・腸ろうの4種類があります。経鼻胃管栄養の場合は、チューブの交換は自宅で行います。
代表的な医療的ケアをご紹介しましたが、これら以外にも、様々な医療的ケアがあります。また、一人の子どもが複数のケアを必要としている場合もあります。
ケアする家族の負担
子どもがNICUに入院している間は、医療スタッフが様々な対応をしてくれますが、退院すると家族が医療的ケアを含めたすべての世話をしなくてはならなくなります。
ただでさえ大変な子育てですが、慣れない医療的ケアをしながら、少しの体調の変化が命の危機につながりやすい医療的ケア児を育てるのは、育てる親御さんにとって精神的にも肉体的にも大きな負担となっています。
医療的ケア児を育てる親御さんへの調査では、自分の子どもから「5 分以上目を離せるか?」という質問に対し、「できない」という回答が40%を超えています。たった5分のわずかな間も目を離すこともできないくらい、張り詰めた日々を送っている様子がうかがえます。
このような状況のなかで、昼夜を問わず子どものケアをする必要があるために「慢性的な睡眠不足である」という質問に「当てはまる」・「まあ当てはまる」との回答は71%に上ります。なかには「睡眠時間がほとんどなく、連続で1時間以上睡眠できない」といったケースもあります。
医療的ケア児のケアの負担は、多くの場合、母親に集中しています。母親が医療的ケア児のケアと家事を一手に引き受けているのです。
そんな中で、約半数の母親が、自分以外に家事を頼める人がいない状況です。また、自分以外に子どものケアを依頼できる人についても、1/3以上が「いない」という状況にあります。
頼れる人がいないために、自分が体調を崩してしまっても、子どもを預けることもできず、医療機関で受診することもままならないといったケースもあります。
※グラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティング 厚生労働省令和元年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」(2020年)に基づき当財団作成
医ケア児とその家族の孤立感
医療的ケア児とその家族は、一般的な家族が当たり前にできることを、当たり前のこととしてできない現状があります。
医療的ケア児を育てる親御さんへの調査では、「家族一緒に外出や旅行をする」ことについて、「問題なく行えている」との回答は17.2%。半数以上の医療的ケア児とその家族が、かろうじて行えている状況で、27.8%が行えていません。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 厚生労働省令和元年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」(2020年)より
子どものケアで24時間つきっきりのため、外出ができないケースがあります。子どもと一緒に外出したくても、重い子ども用車いすにたくさんの医療機器を積んで外に出るのは大変で、外出するのを躊躇してしまうこともあります。
医療的ケア児を育てる親御さんの多くが、いつまで続くか分からないケアに追われる日々に強い不安を感じながら、緊張の連続である日々を生きています。
自分の子どもと同じ症状の子どもの情報がなく、どうすればいいのか分からなかったり、こんな思いをしているのは自分たちだけだと思ったりしてしまうこともあります。
さいごに
2021年に医療的ケア児支援法が成立し、行政による医療的ケア児とその家族に対する支援の充実が図られつつあります。しかし、医療的ケア児の親御さんの負担はまだまだ大きいのが現状です。
また、医療的ケア児とその家族の孤立感の観点からは、医療的ケア児を育てる親同士がつながる機会や、医療的ケア児とその家族が気兼ねなく外出したり、楽しめる機会を創ることも必要とされています。
医療的ケア児の子どもたちが地域で暮らし、成長するのを支えるために、まずは医療的ケア児のことを知っていただけたら幸いです。