すべては子どもたちのために ー ON THE ROAD ー

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すべては子どもたちのために ー ON THE ROAD ー

ON THE ROADのいじめ撲滅活動

ON THE ROADが配布している「いじめ相談ダイヤルハガキ」

公益社団法人ON THE ROAD(旧 一般社団法人地域活性化いじめ撲滅実行委員会/2023年4月公益法人化)は、佐賀県内のすべての小中学校に児童生徒の人数分の「いじめ相談ダイヤル」のハガキを配布し、24時間365日、いじめに悩む子どもたちからの電話相談を受け付け、即座に対応しています

令和4(2022)年度の佐賀県内の国公私立の小中学校、高校、特別支援学校で認知されたいじめの件数は5,916件で、前年度より667件増加しました。不登校の児童生徒数も2,439人で395人増加し、ともに過去最多を更新しています。

県内の児童生徒1,000人当たりの認知件数は63.5件。全国の認知件数53.3件を上回っています。県の教育委員会によると、教員たちに「積極的にいじめを発見・対応する」考えが浸透し、児童生徒の小さな変化に目が行き届いた結果なのだそう。教育現場における先生方の日々の取り組みには、本当に頭が下がります

※「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」文部科学省

ただ、調査はあくまでも学校管理者目線のもの。いじめられていることを親にも先生にも知られたくないと思う子どもも多いでしょう。数字に表れているのはおそらく氷山の一角で、実際にはもっといじめは起きている。ON THE ROADは、そんな子どもたちを助けるために活動しています。

佐賀市へ

JR佐賀駅 この日は快晴で暖かでした

2023年12月。抜けるような青空の下、佐賀駅に降り立ちました。ON THE ROADの津田和泉さんと駅前で待ち合わせです。

年の平均気温が16℃前後という温和な気候の佐賀県。日差しは暖かく穏やか。見渡せばダウンコートを着ているのは自分だけ。地元の方はみな軽装です。

佐賀県は九州で最も面積が小さく(約2,440㎡)、人口も約81万人と隣の福岡県の2割以下ですが、15歳未満の子どもの人口比率が13.2%と、沖縄に次いで高くなっています。出会い・結婚から、妊娠・出産、子育てまで、切れ目のない支援を提唱する「子育てし大県 さが(こそだてしたいけん さが)」の成果なのかもしれません。

※総務省統計局 令和4年10月1日人口推計より

津田和泉さんがとびっきりの笑顔で手を振っています。津田さんとは長いお付き合い。別の団体で重病児とそのご家族の旅行支援活動をしていた彼女が、佐賀にやってきたのは2021年のこと。現在は佐賀と東京の2拠点生活をしながら、ON THE ROADの事業拡大に力を注いでいます。

※津田さんはON THE ROAD事業拡大のため2024年1月に代表理事に就任しました

お迎えの車はいじめ相談担当の古場英樹さんが運転してくださっています。今回の訪問には、市内の施設にON THE ROADへの寄付募集チラシの配架をお願いする目的もあったのですが、忙しい相談の合間を縫って、車で案内していただいたおかげで、さまざまな場所に伺うことができました。

いじめ撲滅活動と学習支援

2015年に古場さんが地域の仲間と始めたいじめ撲滅活動。当初から相談には24時間365日対応しています。

子どもたちからの電話は、思い詰めた内容や誰にも言えなかった悩みがほとんどです。つらい気持ちを打ち明けてもらった後は、すぐに子どものもとに駆け付けます。

常に子どもファーストで生活している古場さんは、いじめ相談ダイヤルの電話を手放しません。「いじめ相談を受けるようになって、お酒をまったく飲まなくなりました。このあたりは交通の便もよくないし、電車のない時間帯に電話がかかってくることも多いので、お子さんの元には車で駆けつけるんです。お酒、好きなんですけどね」と笑います。

相談内容によって対応は異なりますが、本人の了解を得た上で、まず保護者との面談を行い、教育委員会や学校の校長先生や教頭先生、そして担任の先生のもとに何度も足を運び、子どものために最も良い解決方法を検討、実践します。ケースによっては警察からも助言をもらいます。

学びの場の選択肢が増えている昨今、通っていた学校への復学は必須ではありません。学校や教育委員会も子どもの意向や状況に合わせて柔軟に対応するようになってきました。

そんな流れの中、古場さんはいつも復学を視野に入れた支援を行っています。もちろん最優先されるのは子どもの意思ですが、「学校に戻りたい」という気持ちになったときにすぐに復学できるよう、子ども本人はもちろん保護者や教師と相談を重ね、長い時間と多くの手間をかけて体制を整えます。

ON THE ROADでは、年間60件以上の電話相談を受け、そのうち9割強の子どもが通学できるようになり、日常生活を取り戻しています。

いじめ相談担当の古場英樹さん

フリースクールなど多様な学びの場が増えていることは素晴らしいことです。学校に居場所がないと感じている子どもや、学校生活に違和感を覚えている子どもには絶対に必要な場所です。

一方で、いじめという理不尽な出来事で行けなくなった学校に、再び通えるようになることは、子どもにとっての「回復」につながるのではないかとも考えています。そのため、私は学校関係者と一緒に全力でいじめ問題を解決します。

自分を脅かしていた「いじめ」が無くなった学校に、まずは足を運んでみてほしい。友だちや先生と話をしてみてほしい。翌日も登校できそうか感触を確かめてほしい。

無理強いはしません。でも、復学を選択肢から外すのはそれからでも遅くない。学校でしか学べないこともきっとあると私は思っているのです。

 

いじめ相談を続ける中で古場さんが直面した課題は、不登校の子どもたちの学習支援でした。せっかく復学しても、学習の遅れが登校の大きな妨げになる子どもが多かったのです

その当時、田中美智子さんは、経済的な理由で塾に通えない中高生を対象に、学習支援を行っていました。母子家庭で育った田中さんが、周囲の大人たちのおかげで大学に進学できたことの恩返しとして、自身と似た境遇にある子どもたちの手助けをしたいと始めた活動でした。

学習支援は佐賀商工ビル7階の「佐賀市市民活動プラザ」で行っています

古場さんは田中さんの理念と活動に共感し、いじめが原因で不登校になった小中高生の学習支援事業への協力を依頼しました。田中さんも古場さんの取り組みを知ってすぐに快諾。こうして、ON THE ROADの学習支援チームが発足したのです。

田中さんは現在、佐賀市で毎週水曜日の17時から20時まで、鳥栖市では土曜日の18時から20時まで、ボランティアの学生とともに学習支援を行っています。加えて、夏期・冬期の講習や受験生講座などを開催しています。

学習支援の場は、いじめによる不登校児だけでなく、経済的な事情を抱える子どもや、勉強が苦手だったり勉強の仕方が分からなかったりする子どもたちにも開放し、学校の予習復習・試験勉強などをサポートしています。

学習支援の教室に行ってみました

子どもたちの勉強をみる田中さん 的確な助言で子どもたちの理解が進んでいきます

佐賀商工ビルの7階にある「佐賀市市民活動プラザ」の一室で学習支援は行われています。17時過ぎに教室に入ると、すでに15名ほどの生徒が来ていました。通常は40名弱の生徒が参加しているとのことで、和やかな雰囲気が漂っています。

田中さんが子どもたちの間を行き来しています。つきっきりで教えるのではなく、本人のやる気と自主性を見ながら、つまづいている子どもは手助けをする。そんな絶妙な距離感で田中さんは子どもたちと接しています。

学習支援チームのりりかちゃん

津田さんと一緒に駅までお迎えに来てくれた「りりかちゃん」が、中学生たちを前に数学と英語を教えています。

りりかちゃんの説明に、熱心に耳を傾ける中学生たち。数学の問題を正解すると、お友達同士で嬉しそうにハイタッチ。わかるって楽しいよね。

英語の時制の説明などは、自分が中学生のときに聞きたかった!と思うほど。りりかちゃん自身の理解度が深いからこその質の高い授業です。

そんなりりかちゃんは学校に行きづらさを感じている高校2年生。自己主張は強くないけど、自分の考えや意見をきちんと持っているところが素敵です。1対1で話をしてみたいなぁ、と思わせる魅力があって、将来はひとかどの人物になる予感がします。もしこの先、学校のことで遠回りをしたとしても、りりかちゃんはそれもまた自身の魅力に変えていくに違いありません。

ボランティア講師の学生さんたち

学習支援には田中さんが渾身のリクルートで集めたボランティア講師たちが参加しています。「みんなとても優秀なんですよ。でもガチガチの優等生っぽくないところがいいでしょ?」とは津田さんの言葉。

たしかにみんな明朗快活で爽やか。人当たりがソフトでノリが良くて「教えてあげる」感もまったくありません。

子どもたちの悩みを聞く機会も少なくないそうですが、心を開いて相談したくなるのも納得の好青年たち。この教室の気持ちよさは、田中さんの眼力の確かさがもたらしてくれているのだと改めて思いました。

教室のサポートをしてくれる亮太君

教室にはもう一人、高校2年生の亮太君がいます。田中さんを「みっちゃん」と呼ぶ亮太君。中学生の頃から田中さんの学習支援教室に通っていました。高校に進学しましたが、ほどなく不登校になり、現在は通信制の高校で学んでいます。

「不登校の時期はいろいろと大変でしたが、それほど深刻にならずにいられたのは、みっちゃんの強くて明るい指導のおかげです。自分を理解し守ってくれたみっちゃんの役に立ちたくて学習支援のお手伝いに来るんですが、実際にはいつも自分が元気とやる気をもらって帰るんです」。

津田さんと話をする亮太君

「僕はまだ勉強を教えられないので、もっぱら教室の準備や運営のお手伝いをしています。みっちゃんの役に立ちたいし、僕の居場所だから」。

きれいな瞳をキラキラさせながら話す亮太君。彼には夢があるといいます。

「ここで学んだことを生かして、自分でもいろいろな世代の人たちが交流できる場所を作りたいと考えているんです。もうすぐ任意団体を発足させるんですよ。団体の名前は”curios”です」と穏やかに語る亮太くん。たくさんの可能性を秘めた亮太君の未来に幸あれと祈るのでした。

※「curios」は2023年12月に発足しました!

すべては子どもたちのために

ON THE ROADのいじめ相談ダイヤルは、必ず電話の向こうに古場さんがいます。24時間365日、電話をすればいじめの相談を聞いてくれ、すぐさま駆けつけてくれるのです。子どもたちのためなら周囲との衝突も辞さない古場さんの姿勢は、おおらかで優しい人柄と相俟って、子どもたちだけでなく保護者や教育関係者からも信頼されています。

「すべては子どもたちのために」。このスローガンを掲げてから、休みなく続けてきたいじめ相談。その活動はしっかりと佐賀の地に根づき、新たな支援に広がろうとしています。

古場さんと田中さんは、不登校児向けの施設作りの準備に入ったとのこと。これからのON THE ROADの活動からますます目が離せなくなった佐賀への訪問なのでした。

ON THE ROADでは皆さまからのご寄付を「いじめ相談に係る相談員の旅費交通費」と佐賀県内すべての小中学校の子どもたちに配布する「いじめ相談ダイヤルはがきの印刷製本費」に充てさせていただきます。温かいご支援をよろしくお願い致します。

「いじめ相談のSOSに24時間365日応えたい」へのご支援はこちらから