見えない壁だって越えられる ~マンデーマジック東京~

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見えない壁だって越えられる ~マンデーマジック東京~

交流型クライミングイベント「マンデーマジック」

 

7月のとある夕方、お金をまわそう基金(以下、当財団といいます)のスタッフ3人は高田馬場にあるクライミングジムに向かっていました。
NPO法人モンキーマジックが主催する交流型クライミングイベント「マンデーマジック東京」を見学するためです。

マンデーマジックは障害者と健常者の相互理解の場として2012年に始められ、現在では「東京」「横浜」「つくば」で開催されています。

新型コロナウイルスの影響で「マンデーマジック東京」の開催は5ヶ月ぶり。開場前にはスタッフのみなさんが入念なミーティングを行っていました。

モンキーマジックでは新型コロナウィルス感染予防対策を策定し、募集人数も通常の半分にして、万全の体制で参加者を迎えています。
今回の参加者は13名。うち視覚障害のある方が6名でした。

 

クライミングに挑戦

クライミングに初挑戦のゆうゆう!

 

クライミングは難易度別に設定されたコースを、壁に設置された人工の突起物(ホールド)を使って登っていくスポーツです。

コースは同色のテープで区別されていて、S(スタート)のテープが付いたホールドを両手で掴み、両足を地面から浮かせた状態からスタートし、G(ゴール)のテープが付いたホールドを両手でしっかりと掴んだらクリアとなります。

注意事項の伝達の後、グループに分かれて順番に壁に向かいます。

当財団の男性職員「ゆうゆう」(これがマンデーマジックでの彼の呼び名です。モンキーマジックのイベントでは「初めまして」の方も多いため、参加者同士早く仲良くなってほしいという思いから、ニックネームで呼び合うのだそうです)は、クライミング初体験。

そして女性職員の「みっちー」(これもマンデーマジックでの彼女の呼び名です)は3回目の挑戦です。

まずは一番易しいコースから始めます。スタッフやベテランの参加者がわかりやすく的確にナビゲートしてくださるので、二人とも無事にゴールのホールドを掴むことができました。

ここで気持ち良い達成感を味わうと、次に進みたくなるのが人情というもの。難易度をひとつ上げて、再びスタートのホールドを掴みます。

視覚障害者も同じ壁を同じルールで登ります。

事前にナビゲーター(視覚障害があるクライマーとペアになり、ホールドの配置などを伝える人)と確認はしますが、それは見える人が事前に確認する内容と同じ。

見える人も見えない人も同じ条件で登るのです。

 

見える人も見えない人もクライミング仲間になれる

笑顔が素敵なモンキーマジックの「公益事業・イベント担当」 木本多美子さん

 

「見えないことの不便さを知ること、逆に見えなくてもできること、見えているからこそ見逃してしまうこと、などなど。見える人と見えない人が同じ壁を登ることで相互理解が深まります。」
と、モンキーマジックの木本多美子さんは話します。

木本さんは30代くらいの男性に掌を向けました。
「彼は1度も休まずイベントに参加しているんですよ。あと3回で100回連続の皆勤賞です。そのくらいクライミングは見えない人でも楽しめるスポーツなんです。」

ゆうゆう(お忘れかもしれませんが、当財団の男性スタッフです)がご本人にお話を伺ったところ、彼はある日突然目が見えなくなったのだそうです。

それでも、その運命を受け入れることにさほどの時間はかからなかったとのこと。

非常に明るく前向きで強靭。持って生まれた性格もあるのでしょうが、クライミングを通じて得た自己肯定感や達成感も少なからず影響しているように感じました。

「視覚障害者のイメージが180度変わりました!」とはゆうゆうの言葉です。

「現在のマンデーマジックは、視覚障害だけでなく、聴覚障害や上肢下肢に障害のある方もたくさん参加するようになりました。同じ場所で、同じルールで楽しめるクライミングは、障害者と健常者が「助ける・助けられる」関係ではなく、「クライミング仲間」という関係を成立させることができるのです。」

そう言って、木本さんは穏やかににっこりと笑ったのでした。

 

パラクライマーのレジェンド 小林幸一郎さん

パラクライマーの「レジェンド」とも「父」とも呼ばれるモンキーマジック代表 小林幸一郎さん

 

ホールドの位置を確認すると、軽やかに壁を登り始めます。そのしなやかな後ろ姿の美しさに、参加者から憧れと賞賛のため息が漏れます。

見える人よりも登るルートが見えている。

小林さんの手のひらや足の裏には、別の目が付いているようです。

モンキーマジック代表の小林幸一郎さんは、パラクライミング世界選手権 視覚障害者B1(最も重い障害)の部で4連覇中のアスリートです。

16歳でフリークライミングと出会い、28歳で進行性の眼病と診断され、その後全盲となった小林さん。

現在52歳だそうですが、壁を登る姿や豊かな声量、滑舌の良いお話などからは青年のような若々しさが溢れています。

小林さんは言います。

「年齢、性別、障害や運動経験の有無など、関係なく楽しめるのがクライミングです。

私の母親は6年前にくも膜下出血で倒れました。でも彼女は79歳のいまクライミングを楽しんでますよ。」

実際クライミングをされている86歳の方もいらっしゃるそうです。

 

小林さんの言葉は続きます。

「クライミングは見える人も見えない人も同じルールで楽しめるスポーツです。大会や競技ではないので、誰かと競う必要もありませんし、目標も自分で決められます。」

見えていたときも、見えなくなってからも、クライミングはいつも小林さんとともにあって、小林さんの体や気持ちを受け止めてきた。

そして小林さんもまた、クライミングから多くのものを受け取ってきた。そしてずっと楽しんできた。

マンデーマジックが途切れることなく多くの参加者を集めてきたのは、小林さんのその生き方や考え方、そしてお人柄によるところが大きいに違いありません。

 

「見えない壁」は人の心がつくる

 

皆勤賞の彼はあと3回で100回参加。力強く壁を登っていきます。

 

現在、日本で身体障害者手帳を所持している視覚障害者は、31万2千人(※)とされています。

※「平成28 年生活のしづらさなどに関する調査」平成30 年4 月 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部

 

こんなにたくさんの「見る」ことが不自由な人がいるのに、この社会のほとんどは「見える人」の仕様で作られています。

日常生活で視覚障害者と接することがない「見える人」は、自分から知ろうとしない限り「見えない人」を理解する機会はありません。

理解できない。よくわからない。だから近づかない。

小林さんは「見えない壁」は人の心がつくるものだと言います。

「見える人」と「見えない人」が相互理解につながる場で出会えば、障害の有無に関係なく、普通の関係性や距離感を築くことができる。

モンキーマジックにとって、その場が交流型クライミングイベント「マンデーマジック」なのです。

 

見えない壁だって越えられる

 

クライミングは障害の有無に関係なく全身の力を出し切れるスポーツです。登りきった時に得られる大きな達成感は自信獲得につながります。

また勝ち負けはありません(競技は除きます)ので、年齢や運動の経験なども問いません。

多様性を認め合い、相互理解を深め、豊かな人間関係を築ける社会へ。

小林さんとモンキーマジックは障害者クライミングの普及を通して、より豊かな共生社会を目指し活動を続けています。

 

3時間の「マンデーマジック」は、あっという間に終わりました。ゆうゆうとみっちーは、もう腕に力が入りません。それでも「楽しかった!」と声を弾ませます。

参加者が会場を後にするとき、小林さんやスタッフのみなさんが見送ってくださいました。

そのとき小林さんや参加者が白杖(はくじょう)を手にしているのを見て、私たちはみなさんが視覚障害者だったことを思い出したのです。

障害の有無など忘れるくらい、登り、話し、笑い、楽しんだ3時間。

目が見えない方々と自然に接することのできる貴重な出会いの場に私たちは立ち会えました。

ご興味をお持ちの方はぜひ「マンデーマジック」に参加してみてください。そして、モンキーマジックの活動を知り、障害を持つ参加者と出会い、クライミングの楽しさを知ってください。

クライミングはたしかに「見えない壁」を越えさせてくれるのです。

 

「マンデーマジック」のスケジュールはこちらから!

https://www.monkeymagic.or.jp/join

 

NPO法人モンキーマジックのHPはこちらから!

https://www.monkeymagic.or.jp/

 

 

~ご支援のお願い~

お金をまわそう基金では、特定非営利活動法人モンキーマジックへの寄付を受け付けています。頂いた寄付は、障害のある人もない人も一緒にクライミングを楽しみながら、多様性を認め合い、相互理解を深め、豊かな人間関係を築ける社会を目指す「交流型クライミングイベント」に充てられます。皆様からのご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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