10月8日(土)~9日(日)にかけて、NPO法人ネモ ちば不登校・ひきこもりネットワーク(以下、ネモネット)による「ねもキャン」が行われました。
お金をまわそう基金 伊藤も同行させていただきましたので、その活動の様子をご紹介します。
ネモネット・ねもキャンとは
ネモネットは、千葉県内でフリースクールネモを運営している団体です。
不登校やひきこもりを経験した方と不登校の子どもを育てた経験のある親が中心となってフリースクールを運営しているほか、不登校・ひきこもりに関する相談事業も行っています。
ネモネットは毎年1回、「ねもキャン」という合宿を行っています。
台風やコロナの影響でしばらく中止が続き、今回は4年ぶりの開催となりました。
開催場所に選ばれたのは、自然豊かな体験ができる千葉県君津市の「ロマンの森共和国」です。
千葉県内に2か所あるフリースクールネモに通う子どもたちだけでなく、フリースクールネモのOB・OG、他のフリースクールに通う子どもたち、不登校の子を持つ親御さんまで参加し、理事やスタッフも含めると総勢40名以上となりました。
合宿では、それぞれの参加者に合った様々な企画が同時進行で開催されるのが特徴です。
不登校やひきこもりの当事者や経験者、その家族などと交流ができたり、場所を変え、気分を変えて普段相談できていなかったことを話せたりするイベントになっています。
今年は以下の4つの企画が各コテージや体験場所で同時開催されました。
各企画への出入りは自由で、その企画内での過ごし方も参加者自身で決めます。
「ひきこもりサロンの部屋」
コテージの一室で、不登校の子やひきこもりの経験者が、ネモネットのスタッフや同じような経験を持つ仲間と悩みや好きなことなどなんでも話すことができる企画です。
「親サロンの部屋」
不登校やひきこもりの子どもを持つ親が、不登校の子どもを育てた経験のあるネモネットの親スタッフへの相談や、同じ悩みを持つ親同士の交流に活用できる企画です。
「ボードゲームの部屋」
子どもたちとネモネットのスタッフが一緒に様々なボードゲームで遊びながら交流できる企画です。
「アスレチック」
子どもたちが「ロマンの森共和国」のアスレチックや自然の中での体験をネモネットのスタッフや仲間と一緒に行うことができる企画です。
行われた企画の様子をそれぞれご紹介します。
ひきこもりサロンの部屋
私が「ひきこもりサロンの部屋」を訪れると、フリースクールネモに通う人やOB・OG、スタッフ、他のフリースクールのスタッフといった年代や背景も様々な5名が集まっていました。
誰でも何でも話すことができる企画で、フリースクールのスタッフが上手に調整してくれるため、誰もが同じくらいの時間話すことができます。
また、自分から話をすることが苦手な人に対しては、スタッフが一問一答の答えやすい形で対応してくれることもありました。
こうしたスタッフの助けもあり、誰かが悩みを打ち明けると皆で一緒に真剣に考え、雑談に花が咲けば皆で笑い合える、誰もが安心して自分の思いを口にできる空間になっていることが皆の表情からうかがえました。
ねもキャンでは他の企画も同時進行しているため、他の企画から途中参加することも、途中で他の企画に移動することも自由です。
しかし、「ひきこもりサロンの部屋」の参加者は一通り自分の話をした後も残って他の人の話を聞き、それぞれの話に寄り添ったコメントをしていました。
その姿勢からは、話を聞いてもらった分も他の人のために安心して話せる場作りをしたいという思いが伝わってきました。
中でも悩みを話し終えた人が他の人の話に耳を傾け、今度はアドバイスをする側に回っていた様子が印象に残っています。
私が参加している間に3名ほど参加者が新しく加わりましたが、元々の参加者がお手本のようにそれまでと同じ話しぶりを見せてくれたため、新しく参加した人もすぐに馴染むことができ、人数が増えても話しやすい空間に変わりありませんでした。
親サロンの部屋
子育て経験のあるネモネットの親スタッフは、不登校の子どもを持つ経験をしています。
「親サロンの部屋」に現在不登校の子の子育てに悩む親と、過去に悩みながら不登校の子どもを育てた親スタッフが集まることで、一人で抱えがちな悩みや過去の後悔をお互いが理解者となって共有することができます。
今回の合宿では、現在子育てをしている親御さんが1名と、不登校の子どもを育てた経験のある親スタッフが5名、他団体の親の会のメンバー2名集まりました。
現在悩んでいる親御さんの不安やスタッフたちの後悔が語られ、時には目頭を拭う場面もありましたが、8名全員がそれぞれの経験を話し終える頃には皆の表情は明るくなっていました。
お話を聞いていて、スタッフたちの姿勢に気付いたことがありました。
それは、「決して否定しない」・「子どもが一番」・「寄り添い続ける」ということです。
子どもによって性格や置かれた環境などが異なるため、子どもとの関わり方について「正解はない」ということが多くのスタッフの口から語られました。
だからこそ、スタッフたちは親子の関わり方を決して否定せず、その代わり親御さんにしっかりと伝えていたのは、過去に自分の子どもを苦しめてしまった関わり方です。
また、「子どものためには、学校への復帰などの親の願望をあきらめなければならない場合もある」ということをはっきりと伝え、それでも「学校に通ってほしい親の気持ちもわかる」と親目線で親身になって考えてくれるスタッフたちの様子も印象的でした。
悩みや想いを話し終えた後の親御さんのすっきりとした表情が、スタッフたちの姿勢やこの場の大切さを物語っていました。
ボードゲームの部屋
前述の2つの企画のほかに同時開催されていたのが「ボードゲームの部屋」と「アスレチック」です。
他のフリースクールに通う人など、合宿で初めて会う人とも様々なボードゲームや遊具で一緒に遊びながら楽しく過ごすことができます。
どちらもフリースクールに通う小学生から、20代、30代の大人になったOB・OGまで、参加者の年齢や経験・能力は様々。その差を感じさせないようなグループ分けや巧みな進行がスタッフによって行われ、小学生から大人まで皆盛り上がっていました。
最終的に約20名が「ボードゲームの部屋」に合流し、3グループに分かれて盛り上がりは最高潮に。
ボードゲームは担当スタッフの荷物がパンパンになるほど大小さまざまなものが用意され、なんと麻雀の牌とマットまでありました。
多くの選択肢の中からどんなボードゲームをやるか、ゲームの定員内で誰が参加するか決めるためにはグループの中で相談する必要があります。
参加者にとって初対面や年齢の離れた人も多く、様々な人たちと話し合いながら物事を決めていく経験は、「ねもキャン」ならではのものです。
定員が埋まった場合は見学に回る人も出ますが、前のゲームを楽しんだ人が見学している人に次のゲームへの参加を譲る場面もありました。
皆がお互いの意思を尊重することで、初対面の参加者同士でも気持ちよく交流ができていました。
ゲーム内での参加者同士のやり取りも興味深いものがありました。
お題となるものを直接言わずに相手に伝えるゲームでは、参加者に年齢差があるため、子どもたちが今好きなものでお題を例えようとしても他の参加者に伝わりません。
そこで、考えた子どもたちは参加者全員に伝わるように国民的キャラクターでお題を例え、ゲームは大成功。周囲から大きな拍手が上がりました。
子どもたちが他者を思いやる様子はゲームの内外で見られ、周囲を温かい気持ちにさせていました。
4つの企画の後にも花火など様々な企画が用意されており、それらへの参加・不参加も参加者が自由に決められます。
行きたいときに途中から顔を出すことも、途中で部屋に戻ることもできます。
「ねもキャン」は、大人の目の届く範囲で子どもたちが個人で自由にやりたいことを決めることができる点と、会話や遊びを通して参加者同士がお互いに尊重し合える点が大きな特徴です。
ネモネットの理念を体現した「ねもキャン」
ネモネットの理念として掲げられているものに、
「本人の意思を第一に尊重し、学校復帰、社会復帰を前提としない」
というものがあります。
「ねもキャン」では、子どもたちが参加したい企画を自由に選び、学校復帰を促すようなプログラムを強制されることもありませんでした。
「不登校」や「ひきこもり」と聞くと、当事者はふさぎこんでしまっているのではないかと考える方も多いかもしれません。
実際にフリースクールネモにつらそうな様子で入ってくる子も多いとネモネット理事長の竹内さんは言います。
しかし、「ねもキャン」に参加した子どもたちは、元気な子から静かな子まで、皆それぞれが自分の意志で参加した企画を思い思いに楽しんでいました。
つらい気持ちで不登校を選ぶほかなかった子どもたちが、ネモネットで自分の望むものを見つけ、自ら選んでたどりついた笑顔であることを思うと、その経験がかけがえのないものであることに気付かされます。
ネモネットでは自分が本当に望むものを選び取る経験を重ねることができます。
それだけでなく、様々な人と交流する中で、自分勝手に振る舞うことなく、相手の意思を尊重する大切さも学ぶことができます。
未来の自分のあり方を子どもたち自身で決められるように、その意思を理事やスタッフ、子どもの親が一体となって尊重し、そっと後押ししているネモネットの姿勢が「ねもキャン」で体現されていました。
「好きこそものの上手なれ」という言葉もあります。子どもたちがネモネットで望むものを選び続けていった先にどんな未来が花開くか、今後も活動をご紹介していきます。