子どもの権利条約が国連で採択され30年、日本が条約を批准して25年目の節目の年にあたるが、いまだ児童虐待について周知が足りず事件も絶えず起きているのが現状である。今回のセミナーで原点に戻り子どもの権利について勉強する機会になった。
第一部:子ども虐待のない社会をつくるために子どもの権利と体罰禁止
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン様は2019年で創設100周年を迎え、現在まで世界120か国で子ども支援を行い、子どもの権利が実現されている世界を目指して活動している。
今回のセミナーでは、「子どもの権利」、「子どもの権利から考える体罰禁止」、「日本では?」、「これから必要なことは?」の4点から川上様より話して頂いた。
子どもの権利
まず人権について参加者同士が考えるところから始まった。今回のテーマに興味を持っていただいている方が大勢参加され、序盤から盛り上がった。
「人が人らしく、人と人が対等な関係をつくるために必要な保障」
「人として幸せに生きること」
など様々な意見が出た。
人権とは『一人ひとりが人間らしく生きるための条件』、『すべての人に平等にあること』、『だれにも奪えないもの』、『どこにいても、どんな状況でも、だれにでも』であり、人間らしく生きるために『生存』、『自己決定』、『公正さ』の条件が必要であるとされている。
子どもの権利から考える体罰禁止
1989年に国連で採択された子どもの権利条約は、子どもは守られるだけの存在ではなく、自ら声を発し、意見を聴き、決定権を持つ、ひとりの人間として尊厳をもつ存在であることを示した画期的な条約である。条約は「差別を受けない権利」、「子どもの最善の利益」、「生命、生存、発達の権利」、「意見表明権」の4つを一般原則としている。
世界人権宣言にある「すべての人」には子どもも含まれているという考えを土台に、体罰や子どもの心を傷つける罰は暴力であり、「すべての人は、差別なく法律上の保護を受ける権利がある」ということが明確に打ち出されるようになった。
日本では?
昨年の目黒の女児虐待死事件、今年に入って起きた千葉県野田市での虐待死事件が大きな問題となり、2019年6月に児童虐待防止法、児童福祉法が改正され、親権者・児童相談所長・児童福祉施設長・里親による体罰の禁止規定が追加された。この規程には罰則規定はなく、体罰は許されないという社会規範を作っていくことが目的だ。
今後何が体罰にあたり禁止されているのか、厚生労働省が具体的なガイドラインを作る中で、しつけの軽いもの、有形力を用いらないものでも明記されることが重要であると考える。
これから必要なこと
「体罰は暴力であって許してならない」ということを周知していくことが必要である。体罰をなくするためにすでに取り組んでいる様々な国の経験から学ぶことがある。例えば以下のようなことがヨーロッパの報告書で提言されている。
・子どもを含む社会全体に向けた社会啓発
・子育て支援プログラムの促進
・子ども自身の意見を施策や行動計画の中に反映させること
・継続的な意識・行動変容調査とそれを活かした対策
また、体罰及び虐待の減少効果としては、法改正と社会啓発をセットで行うことが最も有効であるとも指摘されている。
最後に
子どもの権利条約の理念に影響を与えたポーランドのヤヌシュ・コルチャックは「子どもはすでに人間である」と言った。
体罰をなくしていくには、大人と同じように子どもの自己決定を尊重し、参加する権利、意見表明をあらゆる場面で保障していくことが重要である。
第二部:パネルディスカッション
事前にたくさんのご質問をいただき、いくつかのご質問に答えて頂いた。
Q:上の年代の方は体罰が必要だという意識が変わらないのではないか。
【安藤氏】
僕が中学生の頃は体罰の巣窟であり、体罰が当たり前であった。そういう意識は残っていると思う。しかし体罰やハラスメントはしてはいけないという意識を社会全体で持たなければならない。
【川上氏】
日本では、会社も含めて様々な形の組織で、疑似的な家族を作る傾向がある気がする。そのような中で、部下(子ども)が上司(親)に反対意見を表明するとハラスメントなどが起きやすいこともある。その根底にも、親が子に暴力を振るうことが当たり前と捉えられているという考えがあるのでは。
【高祖氏】
体罰が子どもの脳や成長に悪影響であるエビデンスが出たのは大きい。自分が体罰を受けてきたからと言って、わが子に体罰してはならない。子どもの立場に立って考えるべきである。
Q:殴られたり怒鳴りつけられることに対して、自分が悪いと思い込み他の家族の状況を知ることができないことについて。
【川上氏】
SOSを出せる媒体を増やす環境をつくることが大切。子どもが自分で意見表明できる選択が必要で、そのための環境を国が整えていく必要がある。
【安藤氏】
小さいころから周囲の人に迷惑をかけるなという教育を受けているから、意見表明できない。いじめの傍観、暴力を容認している原因につながる。
【高祖氏】
日本では他人と少し違うことをすると、いじめのターゲットになってしまうこともある。それぞれの考え方を尊重する必要がある。
Q:海外での教育は?
【川上氏】
個がはっきりしていると思う。子どもの頃から一人の人間であると醸成されていることが、身近にいる海外の知人と接すると感じる。
【高祖氏】
日本の今回の法改正で「意見表明権(子どもアドボカシー)」が入ったのは前進。小さい時から子どもに意見を聞く、子育てを日本もしていくべき。
【安藤氏】
親が子どもの意見を尊重することで子どもは自尊感情が生まれてくる。
パネルディスカッションで参加者の中からいくつか質問があり一部を紹介
Q:子どもを所有物化してしまうことについて
【高祖氏】
「子どもは守るだけの存在ではなく、子ども自身が人権を持っている」という考え方を確立していかなければならない。最近では教育虐待も話題になっているが、威圧や暴言を吐くなどのコントロール型で子育てしてしまうことには注意が必要。
【川上氏】
基本的人権の歴史を考えると、100年くらい前までは成人男性しか人権を持ってなかった。奴隷であった人たちや女性も「私たちは所有物ではない」と人権を求めてきた。子どもは最後の「所有物」で、ようやく人権が認められた、という流れだと思う。
最後に
体罰は、事件が発覚してから問題になっているが、社会全体で体罰は暴力であるということを認識することが虐待事件を防止する対策のひとつとなるのではないでしょうか。
参加していただいた皆様にアンケートのご協力をしていただいたので一部を紹介
・体罰については「なんとなく良くない」という視点だけでなく「なぜいけないのか?」について理解を深めることができた。 ・保育士をしており、今までに虐待の疑いがある家庭もありました。その度どのように支援したらよいのか悩みました。体罰禁止条例により保護者の意識は大分変ったように思います。まだ保育士による無意識の虐待(特に言葉)もまだ見られるので、職場でも問題提起したいと思いました。 ・私は二人目育児の時に、子育てが辛く、夜辛くなって手をあげてしまいそうになった時、子育てを共にしている仲間のおかげで手をあげずに済みました。相談だけではなく実際に仲間が作り孤独にならない仕組みを体罰禁止法整備、啓発とともに勧めていける社会であってほしいです。 ・ママ友同士で、「体罰や怒鳴るのが悪いのは分かっているけど、そんなキレイごとで子育てできないよね」という意見が出ることがありますが、今回のセミナーを参加してキレイごとをキチンと言っていこうと思いました。 ・体罰は身近なことですが、身体的なものだけではないことまで、暴力に含めて考えることも同時に訴えてもいいのかと思いました。 ・保育について大学で学び、実習を行ったこともあり、児童養護施設で働くということも今後考えているので、とても為になりました。家庭1つ1つを見ることはできませんが環境づくり、社会づくりという面でこれから変わっていくことで家庭内暴力などなくなる世の中になればと改めて強く感じました。 |
その他にも今後取り上げてほしいテーマなどたくさんの意見をいただくことができ、今後のセミナー・体験会の参考にさせていただきます。