「ココロが、起動する」〜ハーベストのキャリアセミナー〜

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「ココロが、起動する」〜ハーベストのキャリアセミナー〜

将来なりたい職業

Z世代(※1)と呼ばれる現代の高校生たち。将来はどのような職業に就き、どのような生き方をしたいと考えているのでしょうか。

Z世代が物心ついた頃には、社会を揺るがすさまざまなできごとや要因がありました。ITバブルの崩壊やリーマンショック、親世代の終身雇用制度の崩壊など、社会が不安定な時代を生きてきています。

このような背景から、Z世代は経済的にも価値観としても非常に現実的な傾向にあり、夢よりも安定や現実の生活を充実させることに重きを置く現実主義者と言われています。

(※1)Z世代は一般的には1990年代後半から2012年頃に生まれた世代を指し、2022年時点では20代前半から10歳前後の間の人が該当します。デジタルネイティブやスマホネイティブの世代でもあり、ソーシャルネイティブである点が特徴です。

2022年に行われた「大人になったらなりたいもの」(※2)の調査では、1位は男女とも「会社員」でした。理由として最も多く選ばれたのは「働きやすそうだから」。「コロナ禍でリモートワーク、週休3日制、時差出勤など働き方の多様化が進んだことにより、自分も将来は柔軟に働きたいと考えているのかもしれない」という分析がなされています。

また、2021年の別の調査(※3)では、高校生のなりたい職業として、1位に「教師・教員・大学教授」、2位に「国家公務員・地方公務員」、3位に「看護師」がランクインしており、国家資格が必要な職業に人気があることがわかります。その職業に就きたい理由としては「家族や先生など身近な人の影響」のほか、「国家公務員・地方公務員」の場合は「収入の安定」などにも魅力を感じているようです。

調査結果からは、高校生たちが日本の社会情勢を冷静に見据え、真面目に自身の将来を考えている様子が伺えます。

一方で、12~18歳の子ども(中高生)を持つ保護者に「子どもに就いてほしい職業」(※4)を質問したところ、1位が会社員、2位が公務員(事務系)(※技術系公務員も含める場合は1位)、3位が医療系という結果でした。

 (※2)第33回「おとなになったらなりたいもの」調査(第一生命保険株式会社) 2022年3月

(※3)高校生のなりたい職業ランキング(LINEリサーチ)2021年10月

(※4)「子どもの将来に関する調査」(通信制高校ナビ)2022年1月

これらの結果を見ると、もしかしたら高校生が答えた「将来なりたい職業」には、大人の意向や世相などを敏感に読み取った意識が反映されているのかもしれない…などとも思えるのです。

実際には「良く知らない仕事に対して将来やりたいかどうか聞かれても困る」という高校生も多いのではないか。自分がイメージしやすくて、大人たちが喜びそうな職業をとりあえず答える。嘘ではないけれど本音とも違う…、そんな姿も少し透けて見えてくるような気がします。

 

ハーベストのキャリアセミナー

特定非営利活動法人ハーベスト(以下、ハーベストといいます)は、「ココロが、起動する」をテーマに宮城県内の高校生に多様な大人との出会いを提供しています。

現代の高校生は日常生活の中で家族や先生以外の大人と接する機会がほとんどなく、コロナ禍でその傾向はさらに進んでいます。身近な大人だけを通して見る社会からでは、なかなか将来の選択肢は広がりません。

「知らない仕事」を「やりたい」と思うことは不可能です。ハーベストのキャリアセミナーは、さまざまな大人との出会いを通じて、この世の中には多様な働き方や生き方、考え方があることを高校生たちに伝えています。

 

 

左からスタッフの高橋さやかさん、代表理事の山﨑賢治さん、スタッフの本間志麻さん ※キャリアセミナー当日の出で立ちではありません!

秋晴れの10月。ハーベストの代表理事 山﨑さん、スタッフの高橋さん、本間さんとともに、仙台市の仙台向山高校に伺いました。この日は高校1年生を対象としたキャリアセミナー「オータムセミナー」が開催されるのです。

当日の市民講師は19名。さまざまな職種の方が集まっています。レストランのオーナー、心理カウンセラー、市役所勤務の地方公務員、訪問看護師、留学コーディネーターなどなど。一般企業だけでなく、法律事務所や社会保険労務士事務所、気象庁仙台管区気象台から参加されている方もいます。

講師のみなさんの職業には、これまでの生き方や考え方がぎっしり詰まっています。もちろん現在の姿が最終形ではなく、これからも変化と進化を続けていく。その行程を高校生たちにつぶさに伝えてくださいます。

迎えに来た生徒たちに案内されて、講師のみなさんはそれぞれの教室に入ります。10名前後の生徒たちが講師を囲むように座り、いよいよキャリアセミナーが始まります。

生徒たちは非常に礼儀正しくて素直で清潔感に溢れていてとても可愛らしい。むやみに大きな声を出さないところも好ましい…などと思っているうちに気づきました。彼らは緊張しているのです。「知らない大人を囲んで話を聴く」などということは未経験のはず。微笑ましい姿です。

そんな生徒たちと一緒に、訪問看護師の吉川千恵子さんの講座を聴講させていただきました。吉川さんは看護学生の頃、先生から「あなたは看護師に向いていない」と言われていたそうです。そして、自分でもそんな意識を持ちながら看護師となり病棟勤務に当たっていました。

その後「目標にしたい!」と思える先輩看護師に出会ったことで、吉川さんの目は訪問看護に向きます。訪問看護の仕事は患者の看護だけでなく、生活のケアやご家族からの相談対応まで多岐に渡ります。訪問看護ならではの厳しさも感じつつ、吉川さんは「やりがい」と「達成感」そして「自己肯定感」を獲得していったのでした。

「向いていない」と自覚しながら続けてきた看護師を、「自分の一生の仕事」と思えるようになる過程が一編の小説のよう。静かに胸を打ちます。

吉川さんの講座を聴く生徒たちの大半は、将来医療関係の仕事に就くことを希望しています。質疑応答では「なぜ向いていないと思う仕事を続けられたのか」「なぜ訪問看護にやりがいを感じるのか」「実際のところ医療の現場ってどうなのか」「医療関係の仕事に興味はあるが自信が持てない」「途中で辞めてしまうことはダメなことなのか」などなど、活発な意見が飛び交いました。

最後に吉川さんは生徒たちに伝えます。

「訪問看護の仕事を続けているうちに、仕事に向き不向きは関係ないと思うようになりました。少しでも興味があるなら、そして少しでも好きと思えるなら、なんでもチャレンジしてみてください。何事も自分が思った通り、信じた通りになります!」と。

「不安でもいいんだ」「気持ちが変わってもいいんだ」「未来を信じていいんだ」という大人からのメッセージが、生徒たちのすべすべの頬に柔らかな笑みをもたらします。生徒たちの心が起動した瞬間を見たような気がしました。

 

ハーベストが目指すキャリアセミナー

ハーベストの代表理事 山﨑賢治さんにお話を伺いました。

山﨑さんは宮城県職員の傍ら、ライフワークとして人材育成・教育分野で活躍されています。

また、「人と人の出会い」に力を注いでおり、キャリアセミナーをはじめ、さまざまな形で多くの人々の出会いを創出しています。

 

■現在、キャリアセミナーの市民講師の登録者数は2,000名以上とお聞きしました。さまざまな職業の方がいらっしゃると思いますが、今後はどのような講師を増やしていきたいとお考えですか。

山﨑さん:キャリアセミナーは高校の授業の一部として行うので、平日昼間の自由がきく職業の講師に偏りがちです。日本の企業は国内だけでも380万以上、新卒者採用を行っている会社は6万社とも10万社とも言われています。日本の社会人で最も多いであろう「会社員」の話をもっと聞かせてあげたいので、企業の協力を求めていけたらと考えています。

一方で世の中には高校生が接することの無い職業も多々存在します。将来の選択肢を増やすためには、「知っている」の範囲を広くしておくことが大事です。ぜひ私たちも知らないような多様な職業、多様な生き方をしている方に講師として参加していただきたいと思います。

■キャリアセミナーの課題はありますか。

山﨑さん:私たちのキャリアセミナーは授業導入型で、学校側の負担金が発生します。キャリアセミナーの導入可否は高校の予算によって決まってしまうため、「予算がないから」と導入を断られるケースも少なくありません。大人の事情でこの有意義な機会を享受できない子どもたちがいることは大きな課題です。

国や自治体でキャリアセミナーを無償で提供できる仕組みを作ってくれると良いのですが、それは今のところ望み薄です。この事業を支援してくださる方からの応援とご寄付で団体の運営が継続できているのが現状です。

■今後、どのようなキャリアセミナーを目指していますか。

山﨑さん:高校生たちが自分の知っている企業や仕事はほんの一部なのだと自覚し、まずは世の中にどんな業界や職業があるのかを知る。知りたいと思う職業は自ら調べてみる。講師の話を聴くことで「今」と地続きの「将来」の生き方を真剣に考える。単なる職業観・勤労観の育成にとどまらず、積極的に自分の将来と向き合う子どもを育てるキャリアセミナーを目指しています。

すべての高校生のために、今後はこのキャリアセミナーを日本全国に拡げていきたい。そのため、より多くの方にこの事業を知っていただき、さらなる応援をお願いしたいと考えています。ご支援くださる方々と一緒に、高校生たちを育てていきたいのです。

 

たまたま出会った大人の働き方や生き方を知ることが、生徒たちの将来を少し変えるかもしれません。

大学に進学するとしたら、高校1年生は社会に出るまでに6年以上の時間があります。このキャリアセミナーが「将来の働き方や生き方」を考えるスイッチを押し、生徒たちがゆっくりと時間をかけて自分の将来を見つめてくれたら大成功です。

熱心に講師の話を聴く生徒たちの姿を見ながら、「6年後の彼らに会ってみたいなぁ…」と思う午後なのでした。

 

 ~ご支援のお願い~

お金をまわそう基金では、特定非営利活動法人ハーベストへのご寄付を受け付けています。

みなさまからのご寄付は、コロナ禍により一昨年よりオンラインでの提供を試行してきたキャリアセミナー(社会人による中高生向けの車座の対話)・トークフォークダンス(社会人と中高生が対話を数多く重ねるワークショップ)を、リアル開催時より多様で柔軟な対話の機会づくりの提供のため活用させていただきます。

みなさまのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

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