2000年11月、児童虐待の防止等に関する法律、通称「児童虐待防止法」が施行されました。これを機に、11月を子どもの虐待防止の普及・啓発のための月間として、省庁や自治体、市民団体などがキャンペーンを行っています。
子どもの虐待防止のシンボルはオレンジリボン。虐待のために里親家庭で育つ子どもたちが「明るい未来を示す色だから」とオレンジ色を選んだそうです。
11月の1か月間は東京都庁のライトアップもオレンジ色になっています。
そんなオレンジリボンのきっかけは、2004年に栃木県小山市でおこった、4歳と3歳の幼い兄弟が、同居していた父親の友人から暴行を受け、川に投げ込まれて命を奪われるという痛ましい事件でした。
この事件の翌年に小山市で始まったオレンジリボンキャンペーンが、子どもの虐待をなくすことを呼び掛ける運動として全国に広がっています。
それから20年経った現在になっても、虐待により命を落とす子どもは絶えません。2022年には、72人の子どもたちが虐待により亡くなっています。
子どもの虐待とは
児童虐待防止法では、虐待を身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待の4種類に分類しています。
身体的虐待
子どもを叩いたり、けったりなど暴力をふるい、身体に苦痛を与えること。
ネグレクト
適切な衣食住の世話をしない、学校に行かせない、医者に見せないなど、養育の拒否や子どもを放置すること。家族や第三者の虐待を見すごすこと。
心理的虐待
子どもの存在を無視する、おびえさせる、罵声を浴びせる、無理じいする、子どもの面前で夫婦間暴力を行うなど精神的に苦痛を与え、自尊心を傷つけること。
性的虐待
性的暴行、性関係の強要、性的な刺激を与える、ポルノなどの被写体にするなど、子どもに性的な刺激や行為をさせること。
児童相談所が相談を受け、虐待として指導や措置等を行った虐待相談対応件数は、21万件以上に上ります。
その半数が警察等から寄せられたものでした。子どもの目の前でDVを行う、いわゆる「面前DV」が心理的虐待とされているため、DV事件で子どもがいる場合は、児童相談所と連携が図られるのです。
その一方で、近隣の人や知人から寄せられる件数も2万2000件にのぼり、この10年で倍増しています。
「虐待かも」と思ったら「189」
児童虐待防止法では、虐待を受けたと思われる児童を発見したものは速やかにこれを通告しなければならない、とされています。
市民として、「子どもが虐待されているかもしれない」と思ったら、声を上げることのできない子どもに代わって通報や相談することが求められているのです。
虐待を受けている子どもやその保護者には特徴的な行動や状況が現れます。次のような特徴に複数該当したり、ひんぱんにみられるときは、虐待が疑われます。
こどものサイン
- いつもこどもの泣き叫ぶ声や保護者の怒鳴り声がする
- 不自然なアザや火傷のあとがある
- 衣類やからだがいつも汚れている
- 表情が乏しい、活気がない
- 夜遅くまで一人で遊んでいる
保護者のサイン
- 地域などと交流が少なく孤立している
- 小さいこどもを家においたまま外出する
- こどもの養育に関して無関心である
- こどものけがについて不自然な説明をする
「虐待かも」と思ったときのために、児童相談所に通告・相談できる全国共通の電話番号が「児童相談所虐待対応ダイヤル 189」が設けられています。通話料無料で、匿名で電話することができます。また電話した人の個人情報や電話の内容に関する秘密は守られます。
近所や知人の子どもが「虐待を受けているかも」と思ったら迷わず電話電話してください。
189に電話したらどうなるの?
189にダイヤルすると、近くの児童相談所につながります。
そして、「いつ・どこでのできごとか」、「どのような程度か、頻度はどうか」、「子どもや大人の声が聞こえるか」などを尋ねられます。
児童相談所とは、子どもに関する家庭からの相談のうち専門的な知識及び技術を必要とするものへの対応や、市町村間の連絡調整、情報の提供などのために設置された機関です。
全国に約220か所あり、児童福祉司や児童心理司、精神科医等の専門家が、各種相談に対応しています。
通告を受けた児童相談所は、住所等から子どもの氏名や家族構成を確認し、必要に応じて関係者から状況を確認し、48時間以内に自治体が定めたルールに従って、家庭訪問などを行い、こどもの安全確認を実施します。必要に応じて子どもを一時保護することもあります。
私たちにできること
虐待は、子どもの心に深い傷を残し、将来にわたり影響を与えます。時には命を奪うこともあります。
多くの場合、虐待は、困難を抱える親の「孤立」が要因となっています。困難を抱える家庭を孤立させないこと、支援に繋げること、様々な困難への支援を大きくしていくことが虐待防止にもつながるのです。
そのうえで、もし「虐待かも」と思ったら、声を上げられない子どものために、気づいた大人が「189」することで、専門家の支援につなげることができます。
児童相談所が虐待として指導や措置等を行った虐待相談対応のうち10%にあたる2万件あまりが近隣の人や知人からの通報を端緒としています。子どもの代わりに声を上げる大人が増えることも、子どもたちのために私たちができることなのです。